キャリアガイダンスVol.429
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技能は覚えてもすぐに忘れてしまうが、生徒が主体的に学び習得したキーコンピテンシーは、一度身につけると消失しない」と述べ、生徒自身が抱く問いや違和感(正しいものとのズレ)に発する授業を教師と生徒が協働してつくり上げていくことが重要であることを強調した。生徒が授業の感想を述べた動画も披露され、生徒のエージェンシーを培うことを主眼にデザインされたカリキュラムに、ワークの参加者たちは大きな感銘を受けたようだ。 教師、研究者、大学生、高校生、企業人と多様なステークホルダーが混じり合って行われた今回の研究会。「エージェンシーという概念と初めて出会った」という人も少なくないなかで、率直な感想が、鋭い指摘が、異なる視点からのコメントが行き交い、議論が深められていった。 ラーニング・コンパスを手にした者に求められるのは、エージェンシーをはじめとした概念をどう捉え、自分たちの実践にどう活かしていくかということだ。現在の教育においては、教えねばならないことややらねばならないことが山積しており、先生も生徒もカリキュラム・オーバーロードに陥りがちだ。ラーニング・コンパスのコンセプトに基づいて本当に育成したい資質・能力を明確化することで、教育内容に優先順位をつけたり、何に焦点を当てるべきかを教員同士で共有したりすることができるのではないだろうか。 田熊氏は、研究会の最後をこう締めくくった。「この大きな変革の波のなか、取り組み方や進度によって学校間の格差が大きくなってしまう可能性がある。このラーニング・コンパスは、こんな未来をみんなで目指しませんか、という学びや教育の世界観であり、上位概念としての考え方のフレームである。ぜひ日本の教育現場でも活用し、多くの〝普通の学校〞で、未来を目指した改革を進めていってほしいと願っている」。コンパスは、実践の価値や方向性を確認するためのもの 福井県立若狭高校では、「異質のものに対する理解と寛容の精神を養い、教養豊かな社会人の育成を目指す」という教育目標を実現するために、探究(学校設定教科)、教科授業、特別活動全体を通したカリキュラム開発に取り組んできた。特に探究については、多様な地域資源や身近な事物から課題を設定する能力、さまざまな背景をもつ他者と協働しながら課題を粘り強く解決する能力の育成を目指し、段階的かつ系統的に課題探究に取り組むカリキュラムを構築・実践している。生徒のエージェンシーを培うために、教師も共同エージェンシーをもって関わるよう指導体制の構築に努めており、今年9月に開催されたG20サミット教育関連イベントにカリキュラム開発を担当する渡邉久暢先生と国際探究科2年の荒木美咲さんが登壇して探究の取り組みについて発表を行うなど、北陸エリアを代表するPBL実践校となっている。 渡邉先生は、ISNの研究・実践に参加することの意義についてこう語る。「グローバルな視点で考察されたフレームにおいて本校のカリキュラム開発がどう評価を受けるのか、研究者やOECD担当者などさまざまな方からフィードバックや知見を得られることに大きな価値があると感じています。また、それがより良いカリキュラム開発の促進にもつながっています。一方で、国やOECDに向けて本校の実践成果や課題を積極的に発信することも重要だと考えています。現場の実践を研究理論やフレームの改善に活かしてもらえるよう、研究と実践とをフラットに往還させることを通して、お互いがWin-Winの関係を結べることがISNの魅力です」。●今年の5月にはカナダで開催されたEducation 2030のフォーラムに参加し、海外の高校生や教育関係者と交流する機会がありました。今回の福島での研究会では、カナダでの体験を語る機会やグループワークをファシリテートする機会を頂き、まさに“エージェンシー”を発揮する良い経験になりました。こうしたISNの活動を通して、高校入学前からは想像もできないほど世界が広がり、自信がついたと感じています。(国際探究科2年 竹内陽渚さん)生徒の声福井県立若狭高校教師がエージェンシーをもち、生徒のエージェンシーを培う写真左から、渡邉先生、竹内さん、同校の水谷友梨先生、中森一郎校長。地域の人と関わり合いながら学びを深める姿は、まさに「共同エージェンシー」。教師自身がエージェンシーをもって生徒に関わり、生徒の探究活動に伴走する。G20のイベントで、地元・高浜町の再興策について発表する荒木さん。「未来を創る主体」を育む学校づくりへ「The OECD Learning Compass 2030」に見る“Agency”とは?372019 OCT. Vol.429

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