キャリアガイダンスVol.429
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452019 OCT. Vol.429Positive Emotionポジティブ感情Engagement活動に没頭して集中している状態(フロー)Relationships他者とのつながり、関係性Meaning意味や意義 Achievement達成感や成功体験誌上 進路指導ケーススタディ 志望動機や自己PRが 書けない生徒への対応は?就職活動や進学における推薦・AO入試などで、志望理由書や自己PRなどを書く機会が出てくる2学期。「何を書けばいいのかわからない」「自分の良いところが思い浮かばない」「自信がない」などの生徒の悩みを聞くことが増えると思います。今回は、そのような生徒への対応に役立つ「ポジティブ心理学」に焦点を当てます。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆうこんなケース1大したことをしていないと言う生徒2失敗ばかりだったと悩む生徒3将来に自信がもてず立ち止まる生徒第12回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤 勇人先生 【解説&アドバイス】 ポジティブ心理学は、1998年当時、米国心理学会会長だったペンシルベニア大学心理学部のマーティン・E・P・セリグマン教授によって創設された「人の幸せ」を追究する学問の枠組みです。前号で取り上げたマズローと同様に健康な人の心理に注目し、「心身共に充実したより良い状態=well-being(ウェルビーイング)」を目指し、セリグマンは幸せになるための5つの条件を提唱しました(表1)。この学問の枠組みは心理学にとどまらず、経営学や産業界などでも取り上げられ、世界中に急速に広がっています。 志望理由や自己PRなどがうまく書けないという生徒の場合、出来事を否定的に捉え自分に自信がもてないでいたり、失敗を恐れる不安が大きくなり、うまくいくイメージがつかめず前に進めないでいたりすることが少なくありません。そのような生徒への対応において、ポジティブ心理学の領域で示される理論は大いに参考になります。 例えば、ポジティブ心理学のキーワードの一つに、「レジリエンス(回復力)」があります。同じストレス状態に置かれていても、すぐ回復する人もいれば、なかなか立ち直れない人もいます。その違いの心理的プロセスに注目した理論です。レジリエンスの研究者で実践家のイローナ・ボニウェルは、レジリエンスを高める「SPARKレジリエンス・プログラム」を開発しました。ベースは認知行動療法で、出来事を客観的に捉える一方で、自分の解釈や捉え方のパターンなどを認識し、いわゆる思い込みから脱して、自分の考えに柔軟性をもたせていくというものです。 さらに、「今、ここ」に意識を集中し、感情や思考に左右されず、冷静に観察をする「マインドフルネス」も、重要なキーワードです。マインドフルネスで一般的に知られているのは瞑想です。呼吸や感謝、食べる、歩くなど、何か一つに集中していくことで、マインドフルな状態に入っていき、頭の中をスッキリさせるというものです。 「ポジティブ」という言葉の印象から、すべて良いように考えるとか、無理矢理前向きになるという誤解も生じるようですが、本来、ポジティブ心理学では、良いことも悪いことも受け止め、そこから「幸せになる」ことを目指します。これらの理論は、視野が狭まり、「自分は大したことをしてこなかった」「何も書けない」と思い込んでいる生徒の背中を押す進路相談に役立つ考え方だと言えます。表1 セリグマンが提唱した幸せになるための5つの条件「PERMA」進路指導に役立つ理論●ポジティブ心理学理論を活かすセリグマンは、前向きな感情をたくさん持ち、今の活動に没頭することができ、周りの人々と本質的につながり、自分の人生に意味を見い出し、何かを成し遂げる達成感を持てることが幸せにつながると考えた。

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