キャリアガイダンスVol.429
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「社会を牽引するリーダーになってほしい」と思うからこそ、生徒に感じるいくつかの課題。否定ではなく「期待」することをベースに、地域のみんなで生徒を育てようとしている授業の実践をご紹介します。取材・文/松井大助撮影/桐原卓也広域通信制の私立高校を経て、府立高校の教員に。大阪府で女性として初の指導教諭に。地元の公的機関・NPO・大学・企業と連携した授業を展開。自身も「宙いもプロジェクト」「いばらき元気隊」「子育ち食育実行委員会」など多数のプロジェクトにメンバーとして参加している。家庭科入いりまじり交享子先生今号の先生は違い、理解したことを実践するのは不慣れ」という別の課題を感じたからだ。 「例えば調理実習で作業の説明をすると、生徒はすぐ理解します。でも実際にやるとなると、長年『間違ってはいけない』という学習をしてきたので、失敗を恐れて手が止まります。やってみて、失敗したら修復し、試行錯誤して自分のものにする経験が不足しているのです。授業では知識の『入力』だけでなく、学んで考えたことを基に発表や実践をする『出力』まで行うことをより意識するようになりました」 優秀で、将来は各界のリーダーになってほしいからこそ課題に思うこともある。 「想像力をもって物事を考えられるようになってほしいです。本校の生徒には、法律の助け――人間らしい生活の保障などを気にしなくても、暮らしていける子が多いかもしれません。ですが、自分の生活環境以外を想像できなかったら、無知ゆえに人を傷つけ、指導的立場になってもみんなの生活を守れません。想像力が他者への思いやりを生むのであり、その思いやりこそが社会で求められる教養だと思うのです」 1年生必修の「家庭基礎」では、生活のいろいろな現象・課題をワークショップ形式で考える。みんなで考えて発表や実 茨木高校の入交先生は、前任校までは、今と異なるタイプの生徒と接していた。 「学力偏差値は高くないが、環境に柔軟に適応する生きる力は高い」と感じた生徒たちだ。調理実習では、計量器の目盛りが読めず、材料の分量計算もできず、最初は失敗。でも習うより慣れろで体でやり方を覚え、めきめきと腕を上げた。家庭の貧困など複雑な事情を抱えた生徒も多かったが、生活の中にあった豊かな時間、例えば家族と笑顔で過ごした時間を心の中で大切に育み、前に進もうとしていた。よく覚えているのは、「私の夢は、働いて部屋を借りて、児童養護施設にいる弟や妹を引き取ってまた一緒に暮らすこと」と、家庭への愚痴ではなく希望を語った生徒のことだ。そうした生徒たちが「よりよく生きる」暮らしの知恵を習得できるよう、入交先生は、勉強が苦手でも理解しやすい家庭科の授業づくりに没頭した。 現在の茨木高校では、入交先生は、生徒にまた違う長所を感じている。授業で丁寧に説明しなくても、生徒は教科書やインターネットを駆使して自分で調べ、理解を深められる力をもっていたのだ。 ならば、授業の準備は楽になったのか。 そうではなかった。理解力は抜群だが、「『言葉でわかる』のと『本当にわかる』の失敗を恐れず試行錯誤し想像力をもったリーダーに安心・安全の場にしたうえで心を揺さぶるような体験を生徒に対する想い授業の実践地域の力も借りて心を揺さぶる授業を目指しています生徒を見取って授業をデザイン茨木高校(大阪・府立)562019 OCT. Vol.429
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