キャリアガイダンスVol.429
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■ 茨木高校(大阪・府立)材料を計量し、こねて切って丸めて盛り付ける。手順を説明すると茨木高校の生徒はすぐ理解するが、実践をためらうことも。だから頭ではなく「心と体でわかる」ことを目指す。左は「家庭基礎」で親子を招いた授業。右上は「まちづくり」の授業。右下、家庭科室の廊下には、入交先生のネットワークで集めた大会やコンテストのポスターがずらりと並ぶ。 学習指導要領にはないが、「死」について考える授業も加えている。愛する人と死別した生徒や、闘病中の生徒がいるかもしれず、難しいテーマであるのは承知のうえでだ。入交先生は真剣に投げかける。 「この授業で私はあなたたちを傷つけてしまうかもしれません。でも、それはまずいと避けていたら、本当に死と向き合ったときにどうなるかな? この教室には助け合える仲間がいて、傷ついた心を癒すだけの力をもっています。先生も覚悟してやるので、死をどのように捉え、どう乗り越えるか一緒に考えてください。ここが嫌だった、ということも教えてね」 途中で涙を拭うために教室をいったん出る生徒もいるが、生徒同士がフォローし合い、心揺さぶられる授業が毎年展開習に挑む「出力」の場面が毎回あるのが特徴だ。その授業開きでは「答えない自由もある」ことを丁寧に説明するという。 「グループワークを『問いかけに必ず答えないといけない』と思ってしまうと、自己開示が苦痛になります。嫌なら答えなくていいことを伝え、まずは安心・安全な場所にすることを心掛けています」 向き合うテーマは「家族とは」「生命を育てる」「楽しく食べる」「自分らしく着る」「人間らしく住む」など一生に関わること。既存の常識や価値観を覆すような映画やニュースも積極的に取り上げる。 「自分の見方はこれでいいのかと、生徒の『心のものさし』を揺さぶりたいのです。その葛藤を通して、深く考える力や、多様性を受容する力を鍛えていけたらと」されている。 教員として「金持ち」ならぬ「人持ち」になることに努め、各方面の力を借りて、多様な人との交流の場も生み出している。「家庭基礎」では、例年、地域で暮らす親子や、高齢者を講師に招いているのだ。 2年生の家庭科の選択科目「まちづくり」では、自身の人のつながりをさらにフル活用する。生徒が「生活者の視点」をもってまちを観察し、まちづくりに資するテーマを自分で決め、調査研究、企画立案、具体的な働きかけ(企画の実行や外部での発表)まで行う授業。そうした実践を、生徒だけの閉じた世界ではなく、実社会と関わりながら進められるよう、入交先生は培ったネットワークを生かし、外部の人と生徒を意識的につないでいるのだ。例えば、生徒のまちの観察は市役所のマップづくりに参画する形で行い、おのおのが研究テーマを決めたら、その分野に関連する人や団体、イベントを惜しみなく紹介する、といったように。 「ただし人やイベントの情報提供はしても、それを生かすかどうかは生徒に任せます。生徒が動かないなら興味がなかったのであり、無理にはやらせません。仕掛けては待つ、ですね。教員が手や足を出さなくても、一人ひとりをよく見て情報を届ければ、生徒は『見てくれている』という安心感をもちます。その関係性があれば、生徒は自分から動き出すんですよ」人との関わりの中で生徒が探究できるように「高い志」「枠を越える知性」「自主自律の精神」を教育理念に掲げる。大阪府指定の「グローバル・リーダーズ・ハイスクール」の1校。2018年度入学生より全クラスが「文理学科」となり、2年生から理科(理数探究系)と文科(人文社会国際系)に分かれ、また全員が「課題研究」に取り組むカリキュラムになっている。留学生との交流や、ネイティブの講師によるプログラムなど、国際理解の取組にも力を入れている。文理学科・普通科/1895年創立生徒数(2019年度) 1040人(男子531人・女子509人)進路状況(2019年度)大学250人・その他107人〒567-8523 大阪府茨木市新庄町12番1号 072-622-3423 https://www2.osaka-c.ed.jp/ibaraki/■ INTERVIEW 入交先生のすばらしいところは、学校の外まで飛び出す生徒のチャレンジを、できる見通しを立ててからではなく、とにかく応援し続けることです。結果、生徒が発表や大会の数日前まで何もできていないこともあるのですが、悠然とされている(笑)。無責任とは違うんです。生徒の能力を信じ、生徒を助けてくれるさまざまな人の存在も信じているからで、実際、入交先生がもつネットワーク――地域との横のつながりや、卒業生との縦のつながりを生かし、最終的には生徒が自身の力を発揮するところまでもっていくんですよ。 今や入交先生のいる家庭科室は、外部とつながるハブにもなっています。「まちづくり」の授業だけでなく、学校行事や各種コンテストのために社会との接点を求める生徒たちも、家庭科室に行けば何かがある、と放課後自然に集まってくるのです。そうして「社会とのつながり」をもつことで、生徒が一回り大きく成長していく姿を何度も目にしてきました。首席 英語科本もとすが管克江先生生徒のもつポテンシャルと社会にある資源を信じている572019 OCT. Vol.429
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