キャリアガイダンスVol.429
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「死」について考える授業。『ずっとずっと大好きだよ』『おばあちゃんがいるといいのにな』『わすれられないおくりもの』という3冊の絵本を使い、思ったことをみんなで話し合う。 生徒と接するときの入交先生の姿勢は、教員生活の中で磨かれてきたと言える。 最初に勤務したのは、広域通信制の私立高校。当時は、中学校を出てから全国各地の工場に集団就職した子どもたちが、働きながら授業を受けていた。入交先生は、通信制で単位を取るのに必要なスクーリング(面接授業)のために、全国の工場を巡って授業をしていたという。そこで入交先生は、若くして社会に出る生徒に育まれた生活力のようなものを実感する。座学は苦手でも、置かれた環境の中でどう暮らしていくかを生徒が日々体当たりで考えているのを知ったからだ。 出産を機に私立高校を退職し、数年後に公立高校の教員として復帰。赴いた2校目は、荒れた進路多様校だった。前の学校同様、生活力のある生徒に親しみをもつが、指導上「見張る」ことを求められ、入交先生は思い悩む。編み出したのは、発想を転換して愛をもって「見守る」ことだった。すると生徒から「先生はこの学校にきて嬉しいんやな」と声をかけられたという。生徒の敏感さを思い知った。 同校の生徒には共通の課題も感じた。言葉を使うことに慣れていない。だから授業でもテストでも、ことあるごとに、自分の思いを書くことを求めた。 「練習すると、きちんと書けるようになるんですよ。できないのではなく、『今まで求められてこなかった』。期待して求めて寄り添うことが大事なのだと思います」 進路多様校にいたころに、入交先生はこんな思いも抱くようになる。家庭科の知見は、自分の生活のみならず、この社会や地域の暮らしをよりよくするうえでも役立つはずなのに、「私自身、足元の地域のことに関心を払ってこなかった」と。 自分の暮らす地域のことをもっと知って考えてみよう、と、約20年前に、茨木市の市民講座「まちづくり塾」に参加した。これがまた転機となった。 「まちの人たちとお互いに意見を出して学び合うことが、本当に面白かったんですよ。社会とつながり、多様な人と関わりながら、自分たちの暮らしのことを考える。生徒にもぜひそうした機会があってほしい、と思うようになりました。その思いを形にしたのが、今の茨木高校で2003年度から始めた、家庭科の選択科目『まちづくり』の授業なのです」授業ができるまで教員が期待をしているか生徒は敏感に察知するまず自分が地域に飛び込み社会の中で学ぶ醍醐味を体感「家庭基礎」で行う人生すごろく。人生で起こってほしいイベントと、起こってほしくないイベントをグループで考え、すごろくを作成。各自の人生観の違いにも気づいていく。HINT&TIPS1頭で理解するだけにとどめず心と体でわかる体験の場を創造する「家庭基礎」の授業では、体験を通しての学びを充実させるために、実習・実験を全体の1/2以上は入れている。例えば「生命を育てる」ことを学ぶにあたって、離乳食の実習やオムツの実験、子どもと遊ぶ内容を生徒たちで考えたうえでの母子との交流、母親のインタビューなどを行っているという。2一人ではなくみんなで育てる意識をもち自分が興味ある分野から地域資源を開拓する一人の力には限界があるので、入交先生は家庭科の授業を「地域の教育力を結集して」行おうとしている。力を借りるための人脈の築き方はきわめてオーソドックス。学校周辺で自分の興味のあるテーマの催しがあれば足を運び、まちの役場など官公庁にも相談する。その積み重ねでネットワークを広げていった。3社会や地域の中で生徒が学ぶときは「参加」ではなく「参画」を目指す社会や地域で生徒が何らかの体験をするとき、入交先生は「参加」ではなく「参画」の状況になることを目指す。事前に決められていたことをただ実践するために生徒が加わる(参加する)のではなく、ある課題に対して何をすればいいか、計画段階から生徒が一緒に考えて実践する(参画する)のだ。4生徒が自分の考えや気持ちを言語化し、知識の定着や伝える力の向上を図る毎回の授業やテストで、生徒に自分の考えや気持ちを記述することを求めている。言葉にすると考えが整理され、頭に残りやすくなり、言葉を使いこなすほど、自分の考えを他者に伝えやすくもなるからだ。これまでの経験から、どの学校の生徒でも訓練すればできる、との手応えを得ているという。■ INTERVIEW 市の職員としてまちづくりの仕事を担当しています。入交先生とは初めてお会いして以来、どこに行ってもお顔やお名前を目にするようになったんですね。地元のお祭りに関われば、入交先生の授業を受ける生徒さんもイベント企画に携わっていて、当日はまた別の生徒さんと入交先生が移動カフェまで開いている。まちづくりや食に関するコンテストがあると、市内でも全国でも、生徒さんに全部任せつつ後ろで見守る入交先生にお会いする。机上の話ではなく、地域のいろいろな人とつながりながら現場で活動されていて、圧倒的に信頼できるんですよ。 以前はまちづくりといえば、ハードの整備や目玉イベントの創出が注目されていましたが、私は最近、それ以上に「人」が重要だと感じるようになりました。いろいろな人がまちに出て、多様な人とつながり、やりたいことや未来を話し合うことが、まちを発展させると思うからです。入交先生はそれをもう何年も前から続けてこられてきたのだと思います。茨木市 企画財政部 課長向田明弘さんまちづくりの鍵を握るのは「人」だと考えるようになった582019 OCT. Vol.429

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