キャリアガイダンスVol.430
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かけると、すかさず英語で話しかけるようになった生徒もいる。その際の単語のスペルや会話の組み立てには、まだ不正確な部分もある。が、それでも間違いなく、以前より自分の思いを相手に伝えられるようになった。 工藤先生が驚いた変化もあった。校内のアンケートで家庭学習の習慣がないことを明らかにしていた生徒が、宿題を出したわけでもないのに、家でスピーチの練習をしてきたり、英語表現の課題を授業中だけで終わらせず、家で何ずなのに、一番人気となった。 冗談ではなく、率直な物言いで「私、やればできるんだね」「自分もやればできると思った」と生徒が心情を明かしてくれることがある。そうした生徒に「そうだよ」と返せるときが、工藤先生は一番嬉しいという。 今後目指したいことは、校内の先生たちと力を合わせて、自校の教育目標を具現化することだという。「何事も大切にし、まわりから大切にされる人を育てる」という理念を。 「最初は『大切にされるのを望むのは我侭では?』と思ったんですけれどね。でも、『大切にされる人』とはどういう人かを考えたら、それは自分を大切にし、まわりも大切にできる人だと気づき、なんて素敵な目標だろうと思ったんです。生徒たちが『大切にされる人』になれるよう、学校では何を体験できるといいのか。先生たちと探究や進路の活動も充実させたいですし、なかでも授業は、学校で生徒たちと共に過ごす一番長い時間になります。だからこそ、ただ『英語を教える』というよりも、『人を育てるために、英語という教科で何ができるか』という意識で、授業に取り組みたいと思っています」 昨年に同じ授業を受けた生徒たちの年度末の振り返りシートを見ると、以前より「英語を好きになった」「話せるようになった」「英語学習をがんばりたいと思う」などの設問に、ほとんどの生徒が「そう思う」と回答していた。自由記述欄からは、英語はもちろん、人と関わることへの自信も芽生えたことがうかがえる(左の「生徒の声」参照)。 英語を使うのが楽しくなり、授業の振り返りを勝手に英文で書き出した生徒もいれば、校内で英語の先生を見時間もかけてより良くしてきたりすることが出てきたのだ。現2年生は、探究活動の一環で、京都旅行中に駅前・商店街・高校の3箇所から一つを選び釧路のPRをすることに。商店街のみ、日本語に加えて英語でもすることになったが、英語が苦手な生徒が多かったは もっとも、普段の授業では「失敗ばかり」とも工藤先生は述懐する。生徒の成長を目にすると、「嬉しくて、欲が出て、あれもこれもと一気に求めすぎる授業設計をして、生徒を戸惑わせてしまうことがある」からだ。 そんなときは「ごめん、私が悪かった」と断り、もう一度ゴールの設定から授業の組み立てまでを見直す。 「授業の進め方を、毎年、生徒から学んでいます。例えば私の授業では、スピーチの様子を他の生徒にスマホで動画撮影してもらい、見返すことをしているのですが、不恰好な自分を見るのは大人でも嫌ですよね。もしすごく嫌なら、目線や声量の確認が目的なので、自分が可愛いキャラクターに加工されるアプリで撮影してもいい。こうしたことも生徒から教わりました。生徒と共に、学び続ける教員でいたいな、と思っています」●入学した当初本当に英語が嫌いで苦手でしたが、英語が好きになりました! 来年はもっともっと英語を話したり書いたりできるようになりたいです。●英語で話すのが、少しだけど、怖くなくなった気がする。ゲームや映画で楽しく勉強できたから、中学の時よりも英語を好きになれたと思う。楽しかった!●中学生のころ本当に英語がわからなかったのですが、おかげさまですっかり人並みになれました。イェイ! この一年、英語ではいいことしかありませんでしたし、他の教科が多少(というか多々)悪くても英語はずっと上々でした。Sank you! you are very very exelent ticher!! I respect you!(原文ママ)●英語は特に好きではなかったけど、授業で英語って楽しいなぁと感じた。ペアの活動も毎回違う人とやるので全くしゃべらない人ともお話しできてうれしかった。バイトでよく外国人が来るけれど、前は外国人だ…みたいなかんじだったけど、これからは外国人きたぁぁ!って話しかけられたらとてもうれしい。1年生による英語学習1年間の振り返り3年生による英語表現(高校の思い出)「私、やればできるんだ」と実感し、英語で人と関わるのを楽しむように生徒の変容・成長「大切にされる人」を育てるために英語で何ができるかを考え続けたい授業デザインの理念生徒の声「高校生活一番の思い出をAlly先生(前任のALT)にわかりやすく伝えよう」という課題に取り組んだ昨年度の3年生の成果物。「この単元で重点的に学んだ、過去形を適切に使い、文の構成を意識し、関係副詞whenを効果的に用いて、Ally先生を感動させよう」と呼びかけたところ、生徒たちはBOOK形式や会話形式の表現、動画を盛り込んだInstagramでの表現など、工藤先生の想定をはるかに超えた力作を生み出した。ALTのAriel先生には赴任当初からゲームなどで「生徒と仲を深める」ことを最重要視。生徒がAriel先生を好きになり、「成績のためというよりAriel先生に伝えたい」から英語を学んで使おうとする、そんな場にしたいからだ。「生徒にこうなってほしい」から創る 明日の授業実践事例レポート172019 DEC. Vol.430
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