キャリアガイダンスVol.430
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れらを身を以て伝えていった。 「そうするうちに、生徒が真剣に授業を聞くようになり、わかる・わからないのリアクションをしてくれるようになって、教室の雰囲気もとても良くなりました。今では『この問題、テストに出るんですか?』なんて聞いてくる生徒はいませんし、理解して数学的に説明ができることと問題が解けることとは別だと捉え、わかる喜びや数学の面白さを味わえる生徒が文系・理系関係なく増えたと感じます。大学入試直前の3年生の最後の授業で大学で扱うようています』とかいう声を聞くと、彼らにとって授業が連続性あるもの、記憶に残るものになっていることを嬉しく思います」わったことというのは、たとえその場では理解できても、定着しません。わかった気になっているだけなのです。教えるのは8割でやめておき、あとは自分で考えてごらんと生徒に任せる。教えることと気づかせることを整理しつつ、生徒に考えさせる余地を設けることが大事なのです」 吉田先生は数学を通して、生徒に「学問的に考えることの楽しさ」を伝えたいという。 「考え悩み抜いた末にわかった瞬間の喜びを体感すると、もっと知りたいと思うようになります。この意欲が、生徒の力を伸ばしていきます。そして、社会に出てからも、知りたい、見つけたい、創りたいと、コピペではなく自分で創造していくことができます。こうした生徒を育てるためにも、私たち教師自身が学問に対して喜びや誠意、熱意をもって接すること、そして、生徒にすぐに答えを与えたりすぐに結果を求めたりせず、生徒の成長を見守る心の余裕をもつことが必要ではないかと思います」 吉田先生の本質に迫る授業を受け、生徒の姿勢にも変化が現れるようになった。かつては、「自分は解き方がわかっているから」「とにかく解ければいいから」という理由で、授業をしっかりと聞かない生徒もいた。「テストに出るかどうか」を気にする生徒も少なくなかった。そうした生徒たちに、吉田先生は粘り強く「答えを導くことではなく理解することが授業の目的だ」と発信し続け、何よりも自分自身が数学という学問の奥深さや面白さ、考えることの楽しさを味わう姿を見せることで、そな円周率の話をしたときも、みんな興味深そうに聞いていましたね。『以前にやった〜はこういうことだったんですね』とか『あの説明はとても印象に残っ 「授業は連続ドラマである」というのが、吉田先生の考えだ。授業は前回からの自然なつながりから始まり、「あ、わかった!」という生徒自身の気づきや発見を促す周到な仕掛けがあり、次回に向けてワクワク感やモヤモヤ感をもたせて終わる。授業内には伏線が張られており、「最初に取り上げたあれは、数学的にはこうやって説明ができる。でも実は、別の考え方もあってね…」などと、最後に種明かしをしつつも余韻を残す。1時間の授業で完結させない工夫を随所に凝らしているのだ。 授業のストーリーや展開は予め描いているものの、生徒の反応を見て臨機応変に変えている。 「どういう角度や切り口からどう話したら生徒が理解してくれるかなと、常に考えています。一方、授業では教えすぎないことも肝心です。教師というのはつい教えたくなるものです。授業の進度的にはその方が効率が良いですし、何より目の前の生徒が理解してくれたら嬉しいですから。でも、ただ人から教【1年次】テーマ:考え方、学び方を身に付けさせる(中学生から高校生へ)答えを導くことが数学の目的ではなく、理解することが目的であることを伝える。「数学的事象を式で表現し、主張すること」と「式を読み取り、数学的な意味を理解すること」の両方ができる力(アウトプット力)をつける。今すぐ役立つことを学ぶのではなく、3年生になってから活きる力を付ける。【2年次】テーマ:学問に触れさせる数学を通して物事を考えることの楽しさを味わう。学問の扉を開けて中を垣間見させ、学問の厳しさ、楽しさ、美しさ、面白さ、深遠さを伝える。課題が解決した際には振り返りを行い、わかったことと学ぶべきことを共有する。【3年次】テーマ:学問に触れさせる/学び直しと思考の深化パーフェクトな答案が書けても説明できない生徒は、3年生で学力伸長が止まる(だからこそ1、2年次のうちに学習姿勢を指導しておくことが重要)。学問の厳しさを再認識して丁寧に学ぶ大切さを知り、1つの問題からその周辺の内容まで学び尽くす姿勢を養う。登山と同じ意識をもって、頂上にアタックする準備を1年かけて行う。3年間を通した授業デザインわかる喜びや数学の面白さを知り、生徒が真剣に授業を聞くようになった生徒の変容・成長授業はドラマ。1時間で完結させず、ワクワク感やモヤモヤ感を残しておく授業デザインの理念202019 DEC. Vol.430
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