キャリアガイダンスVol.430
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それは、生徒自身に考察させるAL型授業の有効性に疑いがなかったから。半年あまりが経ち、生徒の様子にも変化が見られるようになった。 「生徒たちに『今日の授業、どうする?』と投げかけたときに、自分にとってどういう学び方が最適かを考え、答えられるようになりました。今後はこれを自分〝たち〞にまで広げ、クラス全体にとってどんな学び方がベストかを考えられるようになってほしいと思っています。また、少しずつ自分で問いを立てられるようになってきました。これができるようになると、前のめりの学び、つまり、与えられる学びではなく自ら学び取ることができるようになります」 ミニプロジェクト学習のプレゼンも、生徒同士の刺激になっている。授業の振り返りで、こんなコメントを書いた生徒がいたそうだ。 「クラスの子たちのプレゼンを見てす評価よりも仲間からの評価の方が響くし、モチベーションになる」と言う。学び合いだけでなく評価し合うこともまた、AL型授業の良さなのだろう。るようになりました。そんなときに、上越教育大学の西川純先生の考え方に出会い、先生が教えない授業、生徒が学び合う授業という在り方を知りました。この子たちに必要なのはこれだ。理論を学ぶうちにそう確信し、実践するようになりました」 次に赴任した都立国立高校では、「どうして教えてくれないんだ」と生徒から不満が出たこともあった。現任校でも「講義をしてほしい」という声が上がった。そのたびに大野先生は、目の前にいる生徒たちと向き合い、授業の感想や意見・要望をヒアリングしては試行錯誤を重ねていった。「生徒は理屈では動かない。まずはやってみて実感させること、そして、やりながらPDCAを回していくことが大事」というのが大野先生の信念だ。 AL型授業に切り替えて8年目を迎える大野先生。最後は、「AL型授業には、こうすれば必ずうまくいくという鉄則はない。目の前の生徒の実態に応じて柔軟に変容し続けることが重要」と締めくくった。 今年4月に三田国際学園中学校・高校に赴任した大野先生。生徒の気質や抱える課題を探りながらのスタートだったが、教育理念・方針はもとより授業の方法も基本的には変えなかった。ーマなどについてプレゼンテーションをする。現在は優秀作品に選ばれた生徒がプレゼンをしているが、「成績のためではなく、やりたい、知りたいと思って取り組むことに意味がある」と考え、選ばれてもプレゼンを拒否する権利を認めるなど、生徒の意見を取り入れながら進めている。ミニプロジェクト学習では、「この先こそが面白いことを垣間見させたい」と大野先生。生徒のプレゼンに対するフィードバックでは、内容への評価よりもテーマに関連した最先端の研究や世の中の動きを紹介することに重きを置いている。ごいと思い、自分には努力が足りなかったと反省した。これからはもっとがんばりたい」 大野先生は、「生徒には教員からの 教員になった当初から、「授業がうまくいかない責任はすべて自分にある」と考え、生徒を飽きさせない授業、生徒の興味・関心を引く授業づくりを心掛けてきた大野先生。実際、講義は生徒にとても人気があった。しかし大野先生は、「自分が教えたいことを教える、伝えたいことを伝えるという授業には限界がある」と断言する。そう悟ったのは、今から8年ほど前、2校目の赴任先である都立高校に勤めていた頃だった。 同校には不登校経験者が多く、従来の「面白い授業」にも反応が薄かった。授業の進め方に悩んでいた頃、前任校で受け持った卒業生たちに会う機会があった。在学中は熱心に勉強していた「良い子」たちだったが、久しぶりに会うと、その変容ぶりにショックを受けた。 「どこでどう間違ってこうなってしまったのかと、教育の無力さを感じ、相当落ち込みました。目の前の生徒に何かできているという実感も薄く、送り出した生徒の末路はこの有様。一体、自分がここにいる意味はなんだろうと考え●以前は「授業=板書を写すもの」という印象が強く、受け身で聞いていましたが、大野先生の授業を受けるようになってから、自分に合った学び方を見つけること、自分でやりたいことを見つけて取り組むことが大事なんだと思うようになりました。そして、日々の学びを、誰かに強いられたり自らに強いたりして嫌々やる「勉強」ではなく、興味のあることを学ぶ「学習」と前向きに捉えられるようになりました。また、身近なことのなかに面白さを見出せるようにもなり、学ぶことがより好きになりました。(メディカルサイエンステクノロジーコース1年・安達咲希さん:写真右)生徒たちの変化と自己分析自分にとって最適な学び方が何かを考え、問いを立て学びに向かえる生徒が増えた生徒の変容・成長まずは実践。やりながらPDCAを回し、生徒の実態に応じて柔軟に変容し続ける授業デザインの理念生徒の声●グループ学習を通してクラスメイトとの仲も深まるし、生徒同士だとよりわかりやすい言葉や表現を使って説明するので、教え合った方が理解しやすいと感じます。また、友だちに教えることで、曖昧だった理解が深まることもあります。大野先生はいろんな書籍を集めた書棚を生徒に公開してくれていて、図書館にはないような本もあり、活用させてもらっています。まだ、大野先生の言う「自分に合った学び方」の本質は見えていませんが、これからも自分なりに追求していきたいと思います。 (同コース1年・中野理央さん:写真左)「生徒にこうなってほしい」から創る 明日の授業実践事例レポート292019 DEC. Vol.430

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