キャリアガイダンスVol.430
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か?」と問いかけ、生徒は「日米和親条約」「質量保存の法則」などと単語で答える…。社会では、このように単語を求められる問いがあるでしょうか。あるとすればクイズぐらいです。 社会ではむしろ、物事の意味や意義などを自分の言葉で表現することのほうが重要です。それなら授業での問いも変えていく必要があるように思います。 教育とは元来、教科特有の知識や技能とともに、それを通じて学び方や人との関わり、問題解決や新しいものを生み出す方法など、社会で生きる力の育成が期待されるものです。近年の学校教育法や学習指導要領でも、改めて重視しています。その目的を置き去りにし、授業の形だけ変えることに意味はないと、アクティブ・ラーニングのブームが落ち着いた今、多くの先生方は気づいていると思います。社会で役立つどんな資質・能力を育てたいか。そのためにどのような授業を行うか。そこが授業改善の出発点になるのではないでしょうか。 では、学習評価は何のためにあるのか。平成28年12月の中央教育審議会答申、平成29年3月の学習指導要領の改訂を受けて中央教育審議会の中に設置され、私が主査を務めた「児童生徒の学習評価に関するワーキンググループ」では、まさにこの問いに立ち返って議論されました。 その際、各方面からの意見聴取やパブリックコメントも幅広く参考にしました。なかでも有意義だったのが、高校生や大学生、新社会人をお呼びして、評価される側の意見を聞いたことです。通知表の数字で示されるだけで、なぜ「3」なのか、何がよくて何が不足なのかがわからない。だから、改善のしようがない。彼らからはそんな不満も聞かれ、もっともな意見だと思いました。 これがスポーツだったらどうでしょうか。練習中、コーチは選手に対して「今のやり方は良かったよ」「もっとこうしてみたらどうか」などとアドバイスします。さらに、大会や試合でタイムや勝敗が出たら、なぜその結果になったかを選手とコーチで振り返り、日常的な練習を改善していきます。 教科の学習についても同じことが言えそうです。学期に一度、数字の評価を行うだけでなく、小テストや定期テスト、課題レポートの返却などの機会に、どうすればもっと良くなるかの検討は重要です。例えば、テストを返却した際に自己分析と改善策をシートに書くよう指導し、今後に生かす教訓を引き出す支援をするといった方法もあるでしょう。こうして学習プロセスに着目し、インフォーマルでもいいから評価を行っていくことで、生徒の力をもっと伸ばすことができると考えています。 また、生徒の学習プロセスを見つめることは、教師にとっては授業改善のための情報を得ることでもあります。例えば、学んだ知識について生徒同士が説明し合うペアワークを取り入れると、その様子を観察することで、生徒の理解度や躓きポイントがわかり、このまま進めていいのか、再度説明が必要かが見えてくるはずです。また、授業の最後に、生徒に「今日の授業でわかったこと・まだよくわからないこと」を記入してもらうと、次の授業改善のヒントが得られるでしょう。 このように、学習評価とは、通知学校で、クラスで、先生から学び仲間とも学ぶ意味は何か「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」で示された学習評価の基本図1①児童生徒の学習改善につながるものにしていくこと ②教師の指導改善につながるものにしていくこと ③これまで慣行として行われてきたことでも、 必要性・妥当性が認められないものは見直していくこと評価される側の声を聞き姿を見つめていく「生徒にこうなってほしい」から創る 明日の授業授業でしかできないことをしているか 評価は何のためなのか312019 DEC. Vol.430

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