キャリアガイダンスVol.430
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452019 DEC. Vol.430誌上 進路指導ケーススタディ 進路を決めかねている 生徒への対応は?文理選択や学部・学科選択、就職企業や受験校選びなど、進路探索の中で、生徒はさまざまな意思決定を行っています。そのため進路指導では、生徒の意思決定をしっかりサポートしていくことが大切になります。そこで今回は、「決められない」「迷う」「どうしたらいいかわからない」などの悩みへの相談で基本となる「意思決定理論」を取り上げます。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆうこんなケース1成績が下がり、部活との両立に悩む2年生2志望校選びの相談にきた2年生3成績が伸びず受験校変更を考える3年生第13回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤 勇人先生 【監修&アドバイス】 長年、アメリカの教育機関におけるカウンセリングやキャリアガイダンスの臨床家として、主にキャリア発達における意思決定に関する研究を深めたのがハリィ・ジェラット(Harry B.Gelatt)です。特に、ジェラットが自身の研究前期に提唱した「連続的意思決定プロセス」と、後期に提唱した「積極的不確実性」は、生徒の進路探索のモデルとなる基礎理論としてご存知の先生も多いと思います。 「連続的意思決定プロセス」では、何を決めるかという目標を立て、情報収集を行う中で、選択可能な選択肢それぞれの結果を予測する「予測(予期)システム」と、その予測結果が自分にとってどれだけ好ましいかを評価する「価値(評価)システム」、その結果が本来の目標や目的に合っているかを判断し決定する「基準(決定)システム」という3つのプロセスで判断し、意思決定するというモデルを明らかにしました(図参照)。特にジェラットは、「価値(評価)システム」における人間が陥りやすい主観的な誤りを避けるため、客観的で実証的なデータの収集と検討の必要性を示唆しました。 この連続的意思決定プロセスは、生徒が自分なりの将来への目標や希望を決め、情報収集を行い、比較検討のうえ決定するという、進路探索の流れに当てはまります。 しかし、時代の変化とともに、この直線的ともとれる意思決定プロセスを補う必要性を感じたジェラットは、「積極的不確実性」を提唱しました。それは、未来は予測できないもので、創造され発明されるもの。だからこそ、社会の不確かさを積極的に受け入れて、思慮深い創造性と直感、柔軟性を発揮することが意思決定には必要だと唱えました。 連続的意思決定プロセスが合理性に基づく左脳的考え方だとすると、積極的不確実性は右脳的思考を加えた意思決定プロセスと言われています。つまり、情報の取捨選択や意思決定において、合理的側面だけでなく、夢や創造性なども重要であるとジェラットは説きます。しかも、夢や目標は絶対的なものではなく、自分で情報収集し、いろいろ試す中で、少しずつ柔軟に変化させていくものだといいます。 進路探索でも、絶対的な目標をもつことが大事なのではなく、探索しながら現実とすり合わせをし、情報収集と意思決定を何度も繰り返すことが必要になるといえます。図 連続的意思決定プロセス(Gelatt,1962)結果目的・目標データ(情報収集)<決定に向けた過程>・予測(予期)システム・価値(評価)システム・基準(決定)システム最終的決定探索的決定探索の方法進路指導に役立つ理論●ジェラットの意思決定理論理論を活かす

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