キャリアガイダンスVol.430
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532019 DEC. Vol.430 「実は、協力店には一度断られたんです。しかし生徒は、それで諦めるのではなく、より良い案を練り直して再度交渉にあたり、最終的に当初の想定を上回る活動になりました」(砂川先生) 体育大会については、今年度、競技者だけでなく、応援する生徒や保護者、地域の方などその場を共有するすべての人が楽しめるものにしようと、実行委員会のあり方やリーダーの役割から見直した。学年全体で何度も議論して改善した競技もある。 「生徒たちが体当たりで作り上げたものには、無骨で至らない部分もあったかと思います。しかし、学校側がお膳立てして表面上きれいに仕立てたものより、ずっと迫力がある良いものになりました」(高比良先生) 生徒の活動の舞台は校外にも広がっている。地域や海外でのボランティア活動、国際コンテストなどに積極的に挑戦する生徒が増加。社会課題の解決に向けてチームを立ち上げ活動する例も少なくない。例えば、教育学部志望者を中心とする有志生徒たちは、新しい教育のあり方を考える会を企画し、他校生も集めて開催した。また、昨年度、校内の女子数人が起点となって他校生徒と共に作った中高生団体では、地域おこし、国際協力、中高生が輝ける校外の場所づくりという3つの柱を掲げ、国際交流イベントでのフェアトレード商品の販売や、プロの野菜ソムリエと協働による地域グルメの開発、商品化などに取り組んでいる。 「生徒は教員の想定をこえて、びっくりすることを次々始めている。嬉しい驚きの連続です」(後田先生) 改革当初、教員間で「主体性とは」の認識が異なっていたり、早朝補習をやめることに対しては「学力が落ちたらどうするんだ」との反発があったりもした。そんななか、影響範囲の少ない課外の時間を見直すことから始めた改革によって、まず生徒が変わり始めた。それが卒業生の進路先での活躍に表れ、これまで進学実績ばかりが注目されてきた同校に対する地域の見方が変わり、入学者の志望理由の多様化にもつながった。そして今、教員の意識や指導のあり方も、自然なかたちで変わりつつあるという。 「教員の役割は、目の前の生徒によって変わるものです。今、本校教員には、あるべき方向に向かって先頭に立って生徒を引っ張るのではなく、生徒の中にある思いや活動を引き出しメタ認知させ、社会や進路とつなぐ役割が求められるようになりました。先生方は、それを生徒から敏感に感じ取り、それぞれ対応を図っています。そのことが一層生徒の成長を後押ししているのではないでしょうか」(後田先生) 生徒に主体性が育つ理由は、「このイベントがあるから」とピンポイントで示せるものではない。生徒、教員、学校を取り巻くさまざまな環境を含め、学校の文化が変わったからといえる。 同校が長期的に見据えるのは、すべてが生徒の自治によって進む学校だという。そのために、「われわれ教員も生徒の変化についていき、能力を引き出せる教員集団づくりを目指していきます」と後田先生。今後も同校は前進を続けていく。自分の思いを大切に行動言いたいことがいっぱいあるのに、思いばかり先走って内容がぐちゃぐちゃになり相手に伝わらない、ということがよくあります。それで中学生の頃は消極的になっていたけれど、高校では「やりたいことをやろう」とグローバル講演会企画チームに入りました。初めて関わった講演会では、講師の方に対する私の思いを認めてもらい、いきなり総監督(講師との折衝担当)に。最初は戸惑い、悩みながらも、メンバーと共にやりきることができました。私にとってはこれが大きな自信になり、興味ある社会問題について大学の先生を訪ねるなど、自分の思いを大切に少しずつ行動できるようになってきたと感じています。(2学年・森 那津実さん/写真後列左)型にはまらない自由さのなかで臨機応変に小さい頃からリーダーになる機会が多くありましたが、中学生までは決められた型を崩さずやることを求められていたように感じます。でも、グローバル講演会には型がなく、毎回アイデアを出し合って企画、運営しています。ワールドカフェのテーマは事前にめちゃくちゃ時間をかけて決めるのですが、当日の講演を聞いて「なんか違う」と感じたら、直前に仲間と話し合いテーマ変更することも。既に決定したことを変えるのはすごく怖いけれど、それがみんなにとって少しでも良いことなら変えていこう。そう臨機応変に考え、行動できるようになりました。(2学年・塩釡 凜さん/写真後列中央)対話を通じて多様な考え方に触れるこの学校の良さは“対話”があること。友達とは、どうでもいい話もするけれど、対話ができる関係性があります。みんなと話すと、一人では思いつかなかったような考えが浮かぶこともあって、自分の中に眠っているものが引き出される感じがします。また、自分と違う考え方に対して寛容になりました。みんなそれぞれ得意分野があるんだなと感じますが、僕の得意はというと、数学です。それを活かして、将来は社会課題を解決するような画期的なAIを作りたい。そして、グローバル講演会に講師として呼ばれたいですね。(2学年・林田直樹さん/写真後列右)協働するからこそ得られる価値を実感「高校に入って変わったね」とよく言われます。以前は友達付き合いが得意ではなく、グループでやるべきことも「自分でやったほうが早い」と一人で背負っていました。でも、高校ではさまざまな場面で意見を出し合ったり役割分担したりするなかで、少しずつ意識が変化。体育大会で使うクラスの幟の製作担当になったときは、「クラスメイトを頼ってみよう」と歩み寄ることができました。みんなで協力して作った幟は、見事コンテストで優勝。中学時代も得意の美術で表彰されることは何度かあったけれど、これまでとまったく違う喜びを感じました。(2学年・岸川莉子さん/写真前列右)主体性とは、一歩を踏み出す勇気だと思う グローバル講演会にお呼びした講師の方とは、講演後もつながりを絶やさないようにしてきました。そのなかで多くの刺激を受け、校外活動を始めたり、興味のあるNPOの方に会いに行ったり、自分から世界を広げられるようになりました。そんな経験から思うのですが、主体性とは、“やりたいことに一歩を踏み出す勇気”ではないでしょうか。高校生活を振り返ると、その勇気を出せるよう、先生方が環境を整え、機会をくださったからこそ、自分の成長があったのではないかと感じています。(3学年・山西咲和さん/写真前列左)■ 体育大会入学時から「対話」に力を入れてきた3学年は、今年度、体育大会の見直しに立ち上がった。伝統競技である仮装については「実施すべきか」から議論し、各クラスが創意工夫して取り組んだ。グローバル講演会企画チームの5人に、高校生活で学んだことや自身の成長を聞きました。生徒の変化がてこになり教員が自らの役割を見つめ直したInterview

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