キャリアガイダンスVol.430
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 2005年からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)研究指定校を受けている兵庫県立尼崎小田高校は、「地域とともに行動・提言・貢献できる人材育成―環境・防災等学際的課題の解決に向けて―」を研究開発主題にカリキュラム開発に取り組んでいる。 3学科1類型を擁する同校では、普通科を含めすべての生徒が探究的な学習に取り組んでいるが、サイエンスリサーチ(SR)科では高度な理数系研究をベースに環境課題に取り組み、国際探求学科ではグローバル社会の課題、普通科看護医療・健康類型では防災・地域コミュニティをテーマに探究活動を行っている。中谷安宏校長は「SR科が対象とする〝地域〞は瀬戸内海全体に広がり、看護医療・健康類型は学校のある小田地域の方々と密着して活動しているように、学科特性によってカリキュラムも地域の捉え方も違います」という。 骨太の理系探究をベースに、地域に貢献できる人材の育成に取り組むSSH事業を中心に紹介していきたい。 大学並の実験設備を揃え、学会発表や数々の賞を受賞するなど高度な研究に取り組んでいるSR科では、SSH第Ⅱ期の指定を受けた2008年度、前年までの「数学・理科に重点を置いたカリキュラム開発」から「環境適合型社会の創出に向けた国際感覚のある科学技術系人材の育成」へ、より社会との関わりを重視するカリキュラム開発にシフト。かつて林立する工場から大気や水質汚染が広がり、公害の町と言われた歴史をもつ尼崎で、「環境」をキーワードに地域の河川や生物の研究が動き出した。取り組んだのは水質調査や富栄養化の原因究明など、浄化に向けての地道な活動だ。 地域全体の環境改善が進むなかでも、劣悪な水質のままであった近隣の運河に目をつけたのは化学班の生徒たち。尼崎運河は徳島大学が研究対象としており、地元の中学校や小学校は環境学習、行政は支援、地元環境NPOが活動の場とするなど多様な主体が環境改善活動に関わっているフィールドだ。化学班の生徒たちが蓄積してきた10年にわたる水質調査データは、水質浄化施設や植物による環境改善の取り組みの効果検証などの基礎資料となっている。 右記関係者との定期連絡会にも参加しながら現在、生徒が行うのは、他地域との水質比較調査や、採取したプランクトンを使った実験でヘドロの原因を探る研究など。十数年の活動を通じて、フィールドは河川の先にある海へ、連携先も海上保安庁や水族館、大学や企業などに広がっている。 開始3年目には同じ大阪湾をフィールドに環境問題に取り組んでいる他校との交流も始まった。2011年、同校は環境をテーマに高校生フォーラムを開催。「海の環境再生に取り組む高校生たちが意見交換をすれば、考え方が広がり、研究の発展に大きく貢献できるのでは」と考えてのことだった。 しかし、高校生フォーラム開催を重ねるなかで気づいたのは、研究意識の変化だけでなく、他校生との交流がコミュニケーション力を育成する効果もあるということ。持続可能な社会を創出する社会との関わりを重視し次世代を作る人材育成へ研究・発表から提言・行動・貢献へ約30年にわたる理系探究学習の実績をもつ尼崎小田高校では、本格的な研究活動をバックボーンに環境や防災といった地域課題に取り組んでいます。研究から発信、行動、貢献に発展した都市部大規模校の実践を紹介します。研究によって問題を把握し地域課題解決のための行動を目指すSSH校取材・文/江森真矢子尼崎小田高校(兵庫・県立)第22回■ 第1回 環境・防災地域実践活動  高校生サミット(第8回瀬戸内海の環境を考える高校生フォーラム)参加数● 協力校32校(口頭発表14校、紙面参加18校)● 参加者138人(生徒73人)● 生徒実行委員会 尼崎小田高校(兵庫・県立)7人、神戸商業高校(兵庫・県立)2人(以下各校)、六甲アイランド高校(神戸・市立)、東高校(大阪・市立)、山陽女子中学・高校(岡山・私立)、安田女子中学・高校(広島・私立)、国泰寺高校(広島・県立)プログラム● 研究発表 口頭発表/参加全校のアピールタイム ポスターセッション(16件)● ディスカッション 「課題研究の内容をどのように地域実践につなげるか、どう地域に知ってもらうか」● ディスカッション報告1972年創立/普通科(看護医療・健康類型含む)・国際探求学科・サイエンスリサーチ科/生徒数905人(男子408人、女子497人)/進路状況大学短大216人、専門学校48人、就職9人、その他28人/スーパーサイエンスハイスクール(重点枠)研究指定校562019 DEC. Vol.430

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