キャリアガイダンスVol.430
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びとは、他者との対話によって思考を深め広げていくこと。読書を通じた先人や先哲との対話も含まれていることにも留意してください。 この二つに比べ、わかりにくいと言われるのが「深い学び」です。中央教育審議会答申では、「知識を相互に関連づけてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見出して解決策を考えたり、思いや考えをもとに創造したりすることに向かう学び」としています。単に事実を記憶するレベルではなく、概念などに基づいて構造的に把握し、未知の場面においても応用できる学びと言ってもいいでしょう。 この「深い学び」の鍵となるのが教科固有の見方・考え方です。その教科を学ぶことで得られる発想や思考。どのような視点で物事を捉え、どのような角度で思考していくかという思考の方法や視点とも言えます。 例えば、因果関係や比較、相互作用で歴史的事象を捉えるといった歴史的な見方・考え方を働かせる学びにおいては、「大正デモクラシー=善、戦争への道=悪」といった二元論は通用しません。なぜなら大正デモクラシーを称揚したのも、普通選挙法施行後、戦争への道を歩んだのも同じ国民だからです。だからこそ大衆化におけるポピュリズムといった観点から捉える必要があり、現代にもつながる自分事の課題であることに気づくはずです。今回の改訂では、このような気づきを生徒に伝えようとしてきた我が国の教科教育の思いを改めて重視しました。各教科の見方・考え方については学習指導要領の解説でも説明されていますが(図)、長年の蓄積の中で「この単元を通して、どういう見方・考え方を活かして考えたり、表現できたりさせたいか」と先生方は考え続けてきたわけで、それを可視化したに過ぎません。一方で教師の代替わりが急速に進み、ともすれば綺麗に整理された知識を体系的に教えることが教科教育であると捉える向きも一部にはあったことから、こうした見方・考え方を確実に引き継ぎ、発展させる必要があったのです。 私は教科教育の専門家ではないため具体的なことは言えませんが、こうした学びを実践するうえでいくつか留意点を挙げさせていただきます。 一つは、主体的・対話的で深い学びは、一回の授業の中で完結するものではなく単元というまとまりの中で展開されるということ。生徒にどんな資質・能力をつけさせたいか、そのためにどんな授業を行っていくかを考えるうえで、単元の組み立てはとても重要です。「この単元では、どんな見方・考え方を働かせるのか」という目標を据えたうえで、「この時間は知識の習得、この時間は実験やディベート」など、メリハリをつけながら単元全体の「ストーリー」を組み立てていく。その際、要所要所で生徒自身が新しい見方を発見したり、できなかったことができるようになったりといった「学びがい」を演出するなど、1クールのドラマを組み立てる脚本家的な役割が求められると思います。 もう一つは、先生方が社会構造の変化を自分なりに把握することです。浮き足立つ必要はないとはいえ、未来社会における生き方、働き方は間違いなく変わります。子どもたちが、学習指導要領の前文にもある「持続可能な社会の創り手」になるためにも、先生自身が社会の変化に敏感にならなければいけません。そのうえで、子どもたちにどのような学びが必要かを共通性と多様性の蝶番である学習指導要領を使いこなして学校教育とは子どもたちへの働きかけによって未来づくりの手伝いをする営み「生徒にこうなってほしい」から創る 明日の授業新学習指導要領を学校現場でどう活かすか?92019 DEC. Vol.430
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