キャリアガイダンスVol.430_別冊

4/7

4Vol.430　別冊付録 「授業計画書で、今日の目的が『現在完了の継続』と書かれているような授業のあり方は本質からずれていますよね」と山本先生は言う。　わかりやすく説明することが目的の英語の授業で、先生が一方的に説明して生徒はぼんやりとわかったような気になり、教科書を開くと先生が言ったことと同じことが書かれていて、それで「先生が説明してくれた通りだ」となっている授業。しかし、そんな授業ではクラスの3分の1から半分くらいの生徒が眠ったり睡魔と戦ったりしているのではないだろうか。　生徒が明確な目的をもって授業中に英語で調べたり、感想を話したり、質問を考えたりとフルに活動している授業と、半分近くが眠っている授業とではどちらが英語力が伸びるかは明らかだろう。　では翻って、大学の英語教育はどうだろうか。　入試の合格が目的とされるような英語教育を受けてきた学生も、大学に入ると次第に「目的」が形成されてくる。「起業したい」「国際的なビジネスに関与したい」等々。その目的を実現するためにも英語が必要になってくる。　しかし、大学の英語授業でも先生が一方的に英語を話し、説明し、学生が説明を聞いているだけの授業もまだ多い。英語嫌いや苦手意識の再生産が繰り広げられているケースも少なくない。ここでも問われているのは、コンテンツベースからコンピテンシーベースへの英語教育の転換であると言えそうだ。　こうした陥穽を越えるために、英会話スクールとの連携などを含むさまざまな取組みが行われているが、大学としての質を担保した英語教育がこれからの大きな課題であることは間違いない。「教えない授業」で英語を学んだ卒業生の声『教えない授業の始め方』（山本崇雄著　アルク）より一部を抜粋『自分から英語を学びたいと思わせてくれる授業です』早稲田大学 文化構想学部 2年 伊与部 夏花さん　私が中学に入学して、初めて受けた英語の授業が山本先生の「教えない授業」で、以来、高校を卒業するまで、ずっと山本先生の授業を受けてきました。つまり、「教える授業」 を受けたことがありません。そのため、山本先生の授業が当たり前になっていて、他の英語の授業スタイルを知らずに大学に入学しました。　大学で受けた英語の授業で「ペアワーク」や「グループワーク」の概念が周りとは違うことに気が付きました。周りのみんなにとってそうした英語の活動は、授業中、必要最小限に行うもので、それ以外の会話は日本語で行うのが普通なのです。山本先生は授業の中で、私たちが英語を使って活動する時間を多く取ってくださいました。ペアワークやグループワ ―クでは、意見交換や調べた内容の発表を行うだけでなく、週末の過ごし方などの雑談も全て英語で行っていました。これらの活動では、相手に伝わる喜びや、伝えきれないもどかしさを感じる瞬間が多かったです。しかし、そういった瞬間を繰り返し体験したからこそ、「どんな英語を使ったら分かりやすいか」「どう表現したら相手に伝わるか」を意識的に考えるようになりました。英語を学べば学ぶほど、自分の言いたいことが相手に伝わり、また相手の言いたいことを理解できるようになるという実感は、英語を学ぶモチベーションになりました。そして、いつしか英語を話すことが大好きになりました。 「教えない授業」に成果があるかは私にはよく分かりません。しかし、一つ自信を持って言えることは、今自分が英語を好きなのは、山本先生あってこそだということです。『誰かのために何かをするときがいちばん一生懸命になれます』慶應義塾大学 総合政策学部 2年 九鬼嘉隆さん　山本先生の 「教えない授業」はやはり“スゴイ”です。そう感じる理由はたくさんありますが、中高生目線でメリットを挙げてみると、①教えられてないのに覚えが早いこと、②予習復習が必要ないこと、③「教えない」と言いながらも、困ったときは教えてくれることもあること。 そして、④アクティブだから、授業が眠くならないこと。さらに、⑤クラスのいろんな人と話しながら勉強するので、好きな異性と話せること（笑）です。授業スタイルが、僕には向いていたのかもしれません。 そんな授業を6年に渡って受け続けたことで、学びの姿勢や学習スタイルなども大きく変わりました。例えば、自習に「一人家庭教師」という方法を取り入れるようになりました。これは自分で編み出した勉強法なのですが、山本先生の「教えない授業」から学んだことを生かした方法です。それは、「人に教える」という行為が自分にとって最も学びになるということです。誰かのために何かをするときが、人間はいちばん一生懸命になれるのです。だから、一人で勉強しているときでも、もう一人の自分に説明するようにしゃべりながら勉強すると、理解が深まるのです。この方法は、大学生になった今でも役に立 っています。「英語と理科のクロスカリキュラム」での生徒のノート※学年は書籍発行当時（2018年）のものです。