キャリアガイダンスVol.431
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教室に入ると、空気感が少し変わります。いつもは周りを気にして省エネ的にその場を過ごす感じが強いのですが、自分なりにジャンプしようという空気が生まれます。内堀真善美と言われるように、本物や美しい物がもつ説得力って間違いなくありますよね。昔は、高校生が高校の外にある本物と出会う機会は少なかったけれど、今はネットなどを通じて、自分の周りに学校にはないさまざまなリアルな物があることを知っています。一方で、高校になると授業はますます概念的・抽象的なものになり、具体とのギャップが広がっていく。そうしてきました。今回の改訂では改めて「社会に開かれた教育課程」が謳われていますが、今に始まったことではないと感じる一方、近年は「連携・協力」という形式的に陥りがちな関係を超え、「協働」という地域と一体になって生徒を育むといったニュアンスをもつ言葉が、各地で使われていることに質的な変化を感じています。岡崎東京で雑誌編集者をしていましたが、まちづくりを支援する団体の代表との出会いをきっかけに、拠点を栃木に移し、日本各地で住民参加型のまちづくりを手伝ってきました。2014年からは東北芸術工科大学に新設されたコミュニティデザイン学科で教鞭をとっています。地域といっても、人や歴史や資源など一つとして同じものはないため、先行事例を真似してもうまくいきません。当事者となって試行錯誤しながら、考え、気づき、課題解決のプロセスを通して、自己変容していく必要があります。そのため学生は地域の方々と1年半にわたって活動を共にします。そして例えば「どうすれば、住民同士がチームになって活動できるのか」といった疑問に対して、「勇気をもって自己開示し、互いの強みと弱みを理解し、補完しあうことが大切」といったことを体験的に学んでいくのです。教室で概念的なことを学ぶだけでは育たない資質・能力を、現場で身につけられるようにしています。― 皆さん、実体験を通じて地域の教育力を実感した経緯がわかりました。「真正の学び」(16ページ参照)という言葉もありますが、生徒がリアルな学びに触れる意義についてお聞かせください。佐々木先生は、授業に劇団員を招くとのことですが何が変わるのでしょう?佐々木例えばアーティストの方々は、教員がキャッチできない生徒のちょっとした良さをつかんで褒めることが多いようです。生徒は最初「えっ、そんなことが褒められるの」と戸惑うのですが、そのことで自分や友達の良さを発見します。また、教員以外の大人がた状況で、「なぜこの勉強をしなければならないのか」という疑問が生じるのも無理はありません。今の学びが現実社会や自分の将来とつながっていることを実感するためにも社会との関わりや多様な社会体験は有効だと思います。佐々木学校での学びって、どうしてもシミュレーション的になりがち。ディベートや小論文でもそうで、社会問題をテーマにしても教室で完結してしまってリアリティがありません。対して、社会に解き放たれると、「あっ、俺はこういうことがしたいんだ」「自分は何て無力なんだ」と実感できる可能性があります。思うに「深い学び」って、地域の大人との触れ合いが、人生における自分の役割に気づくきっかけにおかざき・えみ●学習研究社婦人誌編集部、雑誌編集長などを経て、2009年、拠点を栃木県に移し、studio-L MOTEGI創設。海士町総合振興計画の別冊編集ほか、全国各地で住民参加型のまちづくりに関わる。14年4月より東北芸術工科大学デザイン工学部コミュニティデザイン学科准教授。現在同学科長。高校生の地域参画を推進するため、高校・行政・民間NPOがセクターを超えて対話するSCHシンポジウム(次回は2月23~24日に東北芸術工科大学で開催予定)の運営にも携わる。「2019年度地域との協働による高等学校教育改革推進事業 企画評価会議」協力者。東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科長岡崎エミさんなぜ高校は、地域社会に開かれる必要があるのか
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