キャリアガイダンスVol.431
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 長野県飯田市は、人口減少の課題を抱えている。高校卒業後に多くの若者が外に出て、大半が戻ってこないのが一因だ。それだけに、同市にある飯田OIDE長姫高校は、この地域を担う人材の育成を期待されている。 同校は、飯田市にあった2つの高校が統合し、2013年に開校した総合技術高校だ。機械・電気・電子系の4学科と、建設系の2学科、および商業科からなる。このうちの商業科は統合前の2012年度より、地域協働の学びで「地域を愛し、理解して、地域に貢献する人材を育成する」という「地域人教育」を開始、継続している。 取組には疑義を挟む声もあった。「愛郷心の育成は生徒を地域に縛ることにならないか」と。地元の期待には応えたいが、その協働は本当に生徒のためになるのか。学校は「生徒にどうなってほしくて」地域と連携するのか。 この点について先生たちは、当初から一つの方向性をもっていた。現在、取組を中心になって進めている國松秋穗先生は、その方針をこのように語る。 「愛郷心に通じるような想い、この地域で過ごしたことへの『矜持』や『誇り』をもてるようにすることです。この地域で過ごして、自分はこういうことに面白さや課題を感じた、こんな生き方をしたいと思った、という想いを育む。言ってみれば、自分はこういう人間だというアイデンティティの確立です」 なぜ矜持をもつことが大事で、どうしてそこに地域が関係するのか。 「社会が複雑化し、答えのない課題と向き合わねばならない今は、自分で考えて行動し、多様な人と協働して暮らしを創造するような『自治の力』が求められています。そのように自主的に動くには、土台として、自分はこうしたい、といった矜持となるような想いをもつことが必要です。その軸となる想いを、学校の教員だけで、教科書に載っている〝一般化された内容〞だけで、生徒に育むのは難しい。だから地域で〝本物〞にふれてほしいのです。企業や大学で活躍する人から、買い物がしんどくなったお年寄りまで、立場も世代も異なる多様な人間と関わり、その人たちの想いにしっかりとふれ、生徒も自分の想いを吐き出すなかで、社会にある魅力や課題に気づき、自分にできることや自分のやりたいことも発見する。そうした学びを実現させられることに、地域協働の意味があると思うのです」(國松先生) 地域と関わり、興味のある課題ややりたいことを見つけた生徒は、強制せずともその自分のテーマに向かい出す。するとその過程で、やりたいことを成すには主体的に動くなど「人間性」を磨くことや、知識や思考力など「学力」を高めることも必要だと感じていく。また、自分の取組が地元のみならず、日本や世界の課題ともつながることに気づく生徒も出てくるという。 「地域人教育で私たちが目指しているゴールは、この地域を支える力にもなれば、世界中で活躍できる力にもなるような『自治の力』を生徒に育むことなんです」(國松先生)写真右から、商業科・「地域人教育」担当 國松秋穂先生電気電子工学科主任 栄 隆志先生建築学科主任・進路指導 清水 潔先生。この地域で学んだ矜持を胸に軸をもって未来を創造する人に取材・文/松井大助地域連携によるカリキュラムの概要科目学習内容1学年【基礎】 地域人教育(学校設定2単位・70h)*講義・演習●地域(暮らす・働く・学ぶ)を知る講座、レポート作成法●フィールドスタディ[松本市、飯田市、東京都](調査→整理・分析→報告)2学年【応用】 地域人教育(学校設定2単位・70h)*地域でのイベントの運営サポート●“りんご並木まちづくりネットワーク”に参加 ●年間6回程度、地域イベントの運営サポート●インターンシップを連携企業で実施、探究のための基礎講座3学年【実践】 課題研究(3単位・105h)毎週金曜日4~6時間目*地域づくり・課題解決への取組●10グループに分かれ、1年かけて「地域商品開発・販売」「イベント企画・運営」「地域課題」などに取り組む(プロセスは、事前学習→現地調査→課題設定→企画準備→実践活動→振り返り→修正・発展→まとめ・成果発表)2013年開校/全日制 機械工学科・電子機械工学科・電気電子工学科・社会基盤工学科・建築学科・商業科/生徒数817人(男子560人・女子257人)/進路状況(2019年3月卒業)大学43人・短大11人・専門学校等65人・就職149人学校データ❶生徒が〝自己開示〞に踏み出す地域交流で市や大学と共に「自治の力」を発揮できる力を伸ばす「地域人教育」飯田OオーアイディーイーIDE長おさひめ姫高校(長野・県立)262020 FEB. Vol.431

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