キャリアガイダンスVol.431
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 進路実績では、以前より地元の就職率が高かったこともあり、数量的な変化はあまりない。だが先生たちは「質的な変化」を感じているという。 「就職でも進学でも『何のためにそこに進みたいのか』を語れる生徒が増えたのです。もちろん想いがまとまらない生徒もいますが、10年後や20年後に『高校のあの経験があったから、こうしたいのかも』との想いが芽生えるような、そんな種まきを続けたいと思うようになりました」(國松先生) 2019年度からは、「地域人教育」のような取組を、他の科でも推し進めるべく、「地域協創スペシャリスト」育成プログラムの構想がスタート。機械・電気・電子系、建設系、商業系の学科がそれぞれに、地元企業や市や大学と、共同事業体となるコンソーシアムを立ち上げた(関係団体は上の図参照)。来年度にまずできる範囲から始め、再来年度より本格実施となる予定だ。 「コンソーシアムでご一緒しているのは、これまでも課題研究や講演でご協力いただいてきた方々です。生徒には地域の人の関わりを通して、プロの視点や、みんなで話し合いながら問題を解決することを学んでほしいと思っています」(建築学科・清水 潔先生) 「地域の人は、例えば製造業の方なら『些細なエラーでも、お客さまになぜ起きたか説明するために原因を追究する』など、学校生活にない視点をもたらしてくれます。いろいろな考え方にふれて、何よりも生徒の〝生きざま〞が変わるとよいなと思っています」(電気電子工学科・栄 隆志先生)物体験をさせようと、買い物に行きづらい住民向けのリヤカー販売を始めたこと。活動に共鳴する教員が増え、商業科全体に広がった。そこから地域連携の研究で親交のあった松本大学にも相談し、同大学と飯田市と協定を締結。地域行事への参加など活動の幅を広げ、2012年度より「地域人教育」と銘打つ。翌年度には1〜2年生の授業に学校設定科目を設置、全学年の取組となった(前ページの図参照)。 一連の活動で大事にしているのは、生徒が〝自己開示〞しながら地域の人と関われるようにすることだ。 「生徒が取り繕わずに自由に考えられるようにしたいのです。何を調べるか、教員が誘導しない。昨年好評の生徒の活動があっても、今年もやるべきと固定化しない。まずは地域の多様な想いにふれ、生徒が感じたことを素直に出せるようにする。その自分の想いをもって地域と関わり、認められたり揉まれたりして成長する。体裁よく活動が進むことより、交流による成長を大事にしています」(國松先生) 2016年度からは、入学希望者に向けて商業科の募集の観点として「地域における学習を通じ、まちづくりに興味関心をもち、多くの人と地域課題について探究的に取り組もうとする者」と明示。これを機に、生徒や保護者の理解も深まった。「地域人教育」の活動をしたくて入学する生徒も増え、全体の入学希望者も増加した。 「地域人教育」は「できる範囲から小さく始めたのが良かった」と國松先生は語る。原点は、商業科のある教員が、担当クラスの3年生の課題研究で、本商業科3年 菅沼望もこ子さん行政●飯田市 ●市内全20地区にある公民館(その公民館をハブにして、老若男女いる各地区のコミュニティとも連携)企業・団体●飯田信用金庫 ●飯田精密機械工業会 ●飯田電子工業会 ●飯田商工会 ●長野県建設業協会飯田支部 ●建築士会 ●長姫建築会教育機関・専門家●松本大学 ●学輪IIDA(飯田市と関係を深めてきた全国約40の大学との高大連携の取組)内発的動機で取り組む生徒を地域の人に受け止めてもらう就職・進学して「何をしたいか」自分の想いをもつ生徒が増えた地域を担う人の魅力に気づき自分にできることも発見した●地域人教育では飯田の良さを再確認できたと思います。地域は結局、人でできていると思いました。温泉やイベントが一番の目玉というより、そこにいる人が良くて、その人に惹かれてまた人が集まっていたからです。 大学生と一緒にやった観光の研究では、会った人の似顔絵を入れた地図を作ったら好評で、自分なりにチームに貢献できるという自信にもなりました。地元の野菜を使った商品開発もして、メンバーや地域の人と進めるなかで、目標に向かってみんなで協力する力や、コミュニケーション能力も高められたと思います。物事を1方向から見るのではなく、いろいろな立場から眺めてみることも学びました。 好きな地域の人と今後も関わりたいので、地元のJAに就職します。今までの活動のように、みんなで課題を見つけて、どうするか話し合って解決を目指すような仕事ができたらと思っています。3年生の課題研究では、商品開発やイベント企画、お店運営やワークショップ開催など、地域のためにできることを生徒が調査、企画、準備、実行し、その過程で多様な人とも関わっていく。学校定時制 普通科・基礎工学科/生徒数101人(男子72人・女子29人)/進路状況(2019年3月卒業)大学2人・専門学校等3人・就職11人・その他2人学校データ❷地域社会と協力し、生徒を育てる体制272020 FEB. Vol.431地域を巻き込み社会とつながる学びへ実践事例レポート

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