キャリアガイダンスVol.431
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 新学習指導要領の理念である「社会に開かれた教育課程」を具現化する一つの方法として、高校教育の現場では「高校と地域の協働」というキーワードに注目が集まるようになりました。こうした活動に先行的に取り組んできた高校では、地域社会を舞台として、その課題解決や魅力発信をテーマとした探究的な授業づくりや、高校生を主役とした地域活性化活動など、さまざまな事例が生まれてきています。 こうした潮流の中で、文部科学省は令和元年度から「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」を立ち上げ、地域との協働によるカリキュラム開発に取り組む高校の支援を始めました。当社は本事業の指定校に対する実行支援や評価を担う事務局として、地域との協働に取り組む多くの高校と関わりをもたせていただいています。 この事業の中で各校に求められているのが、高校教育関係者と地域の関係者などからなる「コンソーシアム」という協働体制を設けること。高校と地域が対等な立場で生徒の学びの実現のために対話、協働していくにあたり、こうした体制が非常に重要であることは改めて言うまでもないことです。しかし、具体的に推進していくにあたり、こうした対話・協働の場をどのように活用していけばよいのか、より直接的に言えば、何から話し合いを始めればよいのかについて、悩んでいる高校も少なくないのではないかと感じています。 本稿では、こうした実践的な課題に対して、我々の経験を基に、高校と地域との対話・協働の土台をつくるための2つの「ネタ」を提案したいと思います。提案のカギとなるのが、「評価」の仕組みを使った「現状の見える化」。我々が地域との協働に取り組む高校の支援を行う際に用いている「高校魅力化評価システム」という評価ツールを事例に、ご紹介していきたいと思います。 「高校魅力化評価システム※」は、当社と(一財)地域・教育魅力化プラットフォームが共同で開発した、地域と協働した魅力ある高校づくりの実態と変化を「見える化」することを目的としたアンケート調査です。調査は主に対象となる高校に所属する高校生に対して実施するもので、生徒の資質・能力、意識などを捉える設問に加えて、地域との協働による教育活動などの実態把握のための質問も盛り込んでいます。 評価というと、これから活動を始めようという高校にとっては無縁のもの、時期尚早と捉えられがちですが、実はそうではありません。何らかの活動を評価しようと思う時、その最もオーソドックスな方法は、その活動の「前」と「後」の変化を見ることです。そして、活動前後の変化を見るためには、活動の「前」に、その成果を検証するための物差し(=指標)を決め、それを測っておく必要があります。こうした意味で、実は評価というのは、活動の後よりも、活動の前の調査設計の方が大切です。 さて、ここで非常に重要なのが、活動の前に成果を測る指標を設定するということは、その活動の目的を設定することと同義であるということです。そして、地域との協働において最優先と言ってもよいほど重要なのが、活動の目的に対する共通認識を関係者間でもつこと。「何のために協働するのか」という共通認識を伴わない地域との協働は、高校、地域の双方にとって、徒労東京大学大学院教育学研究科修士課程修了後、2012年より現職。『地域協働による高校魅力化ガイド』(2019、岩波書店)において、地域と協働した高校づくりにおける評価の活用方法等について執筆。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社政策研究事業本部喜きたした多下 悠貴※詳細は喜多下・阿部(2019)「『魅力ある高校づくり(高校魅力化)』をいかに評価するか~『高校魅力化評価システム』の開発を事例として~」三菱UFJリサーチ&コンサルティング『政策研究レポート』(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/11/seiken_191122_3.pdf)を参照学校と地域が対等な立場で協働し、持続的に成果を上げていくためには何があれば良いのでしょうか。先進的な取組を行う高校を対象に調査や分析を行い、関連の政策レポートや著書もある三菱UFJリサーチ&コンサルティングのご担当者に、学校と地域の協働体制づくりについて寄稿いただきました。評価指標を道具に「目的」を共通認識化する 地域との連携、何から始め、どこを目指すか「評価」を活かした目的設定と学習環境づくりの提案高校と地域が対等に協働していくために282020 FEB. Vol.431

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