キャリアガイダンスVol.431
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感を生み出すだけの活動に陥ってしまいかねません。 一方で、多様な主体が関わる中で、目的に対する共通認識をもつことは、言葉にするほど容易なことではありません。この難しいプロセスを少しでも効率的に行ううえで、我々は、「評価」を活用し、成果指標を設定するプロセスを協働で体験することが効果的と考えています。 地域との協働における共通目標設定のプロセスに、評価の仕組みがどう役立ちうるのか、より具体的に説明していきましょう。高校魅力化評価システムでは、地域との協働に先行的に取り組む高校の事例調査などを通じて、そこで育成が目指されている生徒の資質・能力などの要素を、図1のように「主体性」「協働性」「探究性」「社会性」の4要素に整理し、質問項目に落とし込んでいます。 我々が地域との協働に取り組む高校の支援を行う際は、まずは高校にこのアンケートを実施してもらい、活動「前」の生徒の資質・能力などに関する認識の現状を「見える化」します。次にこの結果を、コンソーシアムの参加者間で共有します。まず実施するのが、個人、あるいは数人のグループ単位で、数あるアンケートの設問(指標)の中から「地域との協働を通して、伸ばしたい生徒の資質・能力」を優先度をつけて抽出してもらう作業です。次に、抽出した指標に対するアンケートの結果を確認します。その結果が望ましいと思うか、そうではないかなど、現状認識とそれに対する判断を基に、「伸ばしたい生徒の資質・能力」に対する考察をさらに深めていきます。小集団単位での考察をさらにコンソーシアム全体で共有していくことで、徐々に地域との協働により目指す生徒の成長についての共通認識を構築していくことを目指しています。 共通目的の設定というと、ややもすると抽象的な議論になり発散しがちです。また、多様な主体が関わる会議では、同じ言葉でもその意味するところが実は異なるなど、独特の対話の難しさがあります。こうした課題に対し、評価の仕組みを用いて、具体的な設問、指標、そして生徒の実態を共通基盤にした議論を行うことで、地に足の着いた建設的な対話が可能になると考えています。 高校と地域の協働において、目標設定の次に議題となるのが、具体的にどのような活動を協働で行うのか、ということかと思います。授業づくりや、課外活動での地域活動への参加など、「何をするか」ということについては多種多様なアイデアが求められるところです。しかしここでは少し視点を変えて、「学習環境」というキーワードを、地域との協働における新たな議題(ネタ)として紹介したいと思います。 具体的な活動が「何をするか」であるのに対し、学習環境とは、「どのような環境の中で、その活動をするか」という点に着目する考え方です。環境といっても、学校施設などのハード面のことではなく、我々は「生徒の周囲を取り巻く雰囲気、人との関係性、機会」といったソフトな側面に着目しています。高校魅力化評価システムでは、こうし資質・能力の視点質問項目例主体性●うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む●目標を設定し、確実に行動することができる  /等協働性●自分とは異なる意見や価値を尊重することができる●共同作業だと、自分の力が発揮できる  /等探究性●勉強したものを実際に応用してみる●複雑な問題を順序立てて考えることが得意だ  /等社会性●将来、自分の住んでいる地域のために役に立ちたいという気持ちがある●将来、自分の今住んでいる地域で働きたいと思う●将来、見知らぬ土地でチャレンジしてみたい●18歳選挙権を取得したら、選挙に行くと思う  /等高校魅力化評価システムで用いている「生徒の資質・能力」に係る主な指標(抜粋)図1学びの土壌の要素質問項目例挑戦の連鎖を生む「安心・安全の土壌」●挑戦する人に対して、応援する雰囲気がある●人の挑戦に関わらせてもらえる機会がある  /等協働を生む「多様性の土壌」●ありのままの自分が尊重される雰囲気がある●自分と異なる立場や役割をもつ人との関わりがある  /等問う・問われる「対話の土壌」●お互いに問いかけあう機会がある●将来のことや実現したいことを話し合える大人がいる  /等地域や社会に「開かれた土壌」●地域から大切にされている雰囲気を感じる● 地域の人や課題など、興味をもったことに対してすぐに橋渡しをしてくれる大人がいる●自分の暮らす地域を、外からの視点で考える機会がある  /等高校魅力化評価システムで用いている「学びの土壌」に係る主な指標(抜粋)図2出所)図1、2ともに喜多下・阿部(2019)より作成評価結果を振り返り「学びの土壌」の質を上げる地域を巻き込み社会とつながる学びへ「評価」を活かした目標設定と学習環境づくりの提案292020 FEB. Vol.431

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