キャリアガイダンスVol.431
30/66

た学習環境を「学びの土壌」と表現し、図2のような質問を設けて、その実態を把握できるようになっています。 「学びの土壌」の重要性を示唆する一つのグラフを紹介します。図3のグラフは、「地域をより良くするため、地域における問題に関わりたい」という、我々の整理では「社会性」に関する生徒の意識について、「あてはまる」「どちらかと言えばあてはまる」と回答した者の割合を示しています。表側では、「地域学習」「橋渡しする大人」それぞれの「あり/なし」によって、生徒を4つの類型に分類しています。前者は活動内容(何をするか)に対応するもので、「地域の課題の解決方法について考える」学習活動の有無によって分類されます。そして後者が、「学びの土壌」に対応するもので、「地域の人や課題など、興味をもったことに対してすぐに橋渡しをしてくれる大人がいる」という、生徒を取り巻く地域の大人や教職員の「あり方」について生徒に尋ねる質問になります。例えば、地域課題について考える学習機会、橋渡しをしてくれる大人の両方に「なし」と回答している生徒群では、「地域をより良くするため、地域における問題に関わりたい」と思う生徒は32・9%にとどまっています。 このグラフで興味深いのは、「地域学習あり×大人の橋渡しなし」の群と比べて、「地域学習あり×大人の橋渡しあり」の群では、地域に関わりたいと回答する生徒の割合が20ポイント近く高くなっているという点です。この結果から、「何をするか」に加えて、その活動を支える学習環境、この例でいえば「大人のあり方」が生徒の意識に与える影響は、無視できないものであることを感じていただけると思います。 実は、高校魅力化評価システムの調査結果を基にした研修の場で最も盛り上がるのが、この「学びの土壌」に関する結果を基にした振り返りの時間です。生徒の評価を通して、地域の学習環境の質を支える地域の大人や教職員自身のあり方が見える化されることで、個々の大人が「自分ごと」として、内省を深める機会を提供できているようです。 研修では、「学びの土壌」に関する生徒の回答結果を見ながら、各校の学習環境の強みや課題を見つけていきます。また、その結果と、「育てたい生徒の資質・能力」を照らし合わせることで、目的とする生徒の育ちを達成するために、高校、地域が共に高めていくことを目指す「学びの土壌」は何なのかについて考えていきます。 地域と協働した授業づくりを、明示的なカリキュラムのマネジメントとすると、「学びの土壌」づくりは、非明示的な(=隠れた)カリキュラムのマネジメントと表現することもできます。個々の活動の中で、生徒に関わる大人がどのように振舞うか、どのような価値観を伝えていくかという視点も加え、「カリキュラム・マネジメント」をより広義の意味で捉えることで、地域との協働関係をより一層深めていっていただきたいと思います。 以上、地域との協働の始め方について、2つの「ネタ」をご紹介しました。どちらも、まずは現状をデータにより「見える化」し、そこを基盤として、高校、地域双方の共通認識を育んでいくことが重要であるという点が共通しています。そしてそのために、評価の仕組みを活用することの有効性についてもお伝えしてきました。 現状を「見える化」するための評価については、各校で実施している学校評価や、高校または教育委員会単位などで実施している生徒向けの調査などの活用が考えられます。また、コンソーシアムなどで、評価指標づくり自体を議題にしてもよいでしょう。今回紹介した高校魅力化評価システムのように、既存の仕組みを利用し、そこから目標とすべき指標を選びとっていくことも考えられます。活動の「前」に、ぜひ評価の仕組みを活かした協働のあり方を設計してみてください。※今回事例として紹介した「高校魅力化評価システム」は、今後、全国の都道府県単位(教育委員会などが主体となり、各高校で実施する形を想定)で導入が可能になります。詳しくは、(一財)地域・教育魅力化プラットフォームまでお問い合わせください。出所)島根県(2019)「高校や地域の学習環境アンケート」における高校魅力化実践校(16校)の調査結果より作成「地域学習」・「大人の橋渡し」の有無と生徒の成長の関係性図30%20%40%60%80%61.9%合計 (n=3810)32.9%地域学習なし × 大人の橋渡しなし (n=592)55.1%地域学習なし × 大人の橋渡しあり (n=943)56.1%地域学習あり × 大人の橋渡しなし (n=394)75.6%地域学習あり × 大人の橋渡しあり (n=1861)「地域をより良くするため、地域における問題に関わりたい」に、「あてはまる」「どちらかと言えばあてはまる」と回答した者の割合「評価の仕組み」を高校と地域の協働の土台に302020 FEB. Vol.431

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る