キャリアガイダンスVol.431
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 今なぜ社会に開かれた教育課程が求められているのかを考えるには、まずこれからの社会のあり方を理解することが大前提となります。今は旧来型の良い大学に入って良い会社に入れば幸せになれるという時代ではありません。また、若い頃に注入した知識で一生食っていける、そのためにみんなが等しい知識技能を得れば良い、という時代でもありません。 現代は、工業社会であったSociety3.0から情報社会であるSociety4.0に移行しており、さらには超スマート社会であるSociety5.0に向かっています(図1)。ですが、多くの学校はSociety3.0の時代で止まっている。工場の現場労働者を育てるための教育は、言われたことをきちんとやり点数を取れる生徒を育てれば事足りましたが、定型業務は機械が担う時代です。おまけに、企業の人材育成能力も下がっています。この時代に、幸せに生きていくためにはどんな力が必要でしょうか。 Society4.0以降の社会に必要なのは多様性(ダイバーシティ)の中で対話的、協働的に知恵を生み出す力です。実は、20年前にゆとり教育が打ち出されたときすでに提示されていた方向性だったのですが、残念ながら現場がついていけなかった。ダイバーシティがなく対話も生まれにくいSociety3.0的な学校の中だけでは、十分に力をつけられないのです。 そんな状況で必要な力を育めるのは、多様性も対話もある学校の「外」ということになりますが、豊かな経験ができるかどうかは、家庭環境や地域によって変わってくる可能性が大きい。下手をすれば格差が広がるということになりかねません。学校とはそもそも、特に公立学校は、教育の機会均等のセーフティネットであるはずです。生徒が幸せに生きていける力をつけるために、あらゆるリソースを活用すべき。それが学校を社会に開く意義なのです。 知識・情報の伝播スピードが速くなるに伴い、その価値が下がるスピードも速くなります。知識はもちろん必要ですが、替わって必要となるのは、知識を活かし、知識を生み出していく力です。AIの時代になればなおさら、人間にしかできないこと、その人にしかできないことを尖らせていくことが必要になります。 では、どんな環境であればその力が今なぜ学校を社会に開く必要があるのか、また、そのことによって生徒にどんな力をつけることができるのでしょうか。そして、より良い高校と地域の協働のあり方とは? 文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革事業」の企画評価会議で座長を務める浦崎太郎先生に伺いました。地域と共に生徒の学びを〝社会〞と〝将来〞につなぐこれからの学校づくり 1965年生まれ。広島大学大学院 教育学研究科 教科教育学専攻 博士前期課程修了の後、郷里の岐阜県で高校教員となる。県立恵那高校、岐阜高校、羽島北高校勤務の間、人事交流で中学校勤務を経験し、勤務先で総合学習を支援するNPO(洞戸村ふるさと塾)の設立に参画。また、2007年からの4年間、岐阜県博物館ではアウトリーチ事業などの社会教育に取り組んだ。最後の勤務校となる可児高校では、「地域課題解決型キャリア教育」の普及に尽力し、全国組織の設立に参画。2015年より文部科学省中央教育審議会生涯学習部会学校地域協働部会専門委員。2017年より現職。大正大学地域構想研究所 教授浦崎太郎「多様性」と「対話」のある場でこれから必要な力を育むリアルな社会での探究活動で個性や人間性が磨かれる取材・文/江森真矢子312020 FEB. Vol.431

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