キャリアガイダンスVol.431
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育つのか。一つには、自分の考え方や意見を表現することで個性に気づくチャンスのある、より豊かな学びの環境です。もう一つは、得意なことを活かして役割を果たすことで、自分の存在価値を見出せる環境です。 リアルな社会とつながって探究活動を行うことが、その近道といえるでしょう。人間にしかできない、現場で感じること、問いを立てること、意味を味わうことは探究のプロセスに含まれます。感性には個性が現れるので、その人らしさが磨かれます。今の学校の中だけで尖った人間を育てようとすると大変ですが、社会に出せば可能性は広がります。もう、学校の中に生徒を閉じこめていることに合理性はないのです。 まとめれば、Society3.0から4.0以降に向けた教育の方向性は、定型作業から価値創造へ、全員一律から個性重視、個別最適化への変化です。そのような教育は、Society3.0の学校内だけではなし得ない。学校は社会から遮断された場所ではなく、生徒を人や社会とつなげる場へ、教師は管理から挑戦を伴走するあり方へと変化するべきです。誰が教育をするのか、教育目標をどう定めるのか、学校の概念を拡張する動きは、既に一部の高校で始まっています。 文部科学省が示した社会に開かれた教育課程の理念は、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な教育内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを明確にしながら、社会との連携・協働によりその実現を図っていく」(文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」前文)として、3つのポイントが示されています(図2)。 私が企画評価会議の座長を務める「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」でも、この理念を体現し、地域課題の解決などを通じた探究的な学びの充実を図ることで、さまざまなフィールドで活躍する人材が育成される仕組みの構築を促しています。 協働とは、双方が望むことを丁寧にすり合わせ、お互いのために力を出し合うこと。社会が生徒を受け入れる体制を作るだけでなく、社会と共に教育目標を磨き、教育内容を充実させることが理想です。生徒の成長のために一緒に汗をかける関係といってもよいでしょう。 地域から頼まれるまま人手として生徒を派遣しても、得られるものは限定的です。さらにいえば地域連携が目的化して、個人の興味関心に基づかない「やらされ探究」や「見た目だけ探究」に終わる例も同様です。 私が講演等で示す、地域探究の課題設定8箇条(図3)では「ジブンゴト」であることを一番に掲げています。「個別最適化」は、これからの学びのキーワードの一つです。教科学習でもいえることですが、生徒が夢中になって、必要なのは多様性の中で対話的・協働的に知を生み出す力社会の変遷と教育の変化の方向性図1一緒に汗をかける関係が連携・協働の目指す姿個別最適化を意識したカリキュラム開発を▶教育の変化の方向•定型作業に需要•人も規格品が有利•生徒は学校に従属•興味関心を封印•全員一律(40名クラス)•管理強制•人や社会から遮断•学校で完結可能•価値創造に需要•尖った人物が有利•学校が個性を開花•興味関心を尊重•学びの個別最適化•挑戦に伴走•人や社会とつなげる•学校で完結不可能平成は世界の潮流に逆行して衰退した時代知識の価値低下遅速狩猟社会均質性重視・先祖伝来の土地や文化をそのまま継承・個性や抜きん出た才能は不要農耕社会均質性重視・ 「規格品の大量生産」が富の源泉・ 人も「規格品の大量生産」 …個性は封印工業社会多様性重視・「三人寄れば文殊の知恵」が富の源泉・「個別最適化」で熱情や個性を徹底開放情報社会多様性重視・「人間にしかできないこと」が富の源泉・一人ひとりの感性・興味関心に応じた探究AI社会322020 FEB. Vol.431

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