キャリアガイダンスVol.432
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か、力で抑え込むのではなく、応援する姿勢を貫きました。腹が立ったのは学校が落ち着いてからです。力関係が逆転した途端、生徒を従わせようとする威圧的な先生が現れたんです。職員室で異議を唱えましたが、若かった私は取り合ってもらえませんでした。 それまでも学級や学年、分掌でできることはあったし、実際してきました。けれど校長にならない限り、学校全体は変えられません。次の異動先で目を掛けてくれた校長の強い勧めチャイムを鳴らさないなどの工夫をしてきましたが、高校では訴えを聞いてももらえなかったそう。もしも「お前一人くらい我慢しろ」という発想があるんだとしたら、とても残念なことです。 うちの卒業生がすごいのは、厳しい規則は嫌だと思うと、同じような校風で、校則の緩い高校を自ら探してくること。もしくは、「校則が厳しいことは知っているが、それよりも野球部で活躍することを優先する」などと、覚悟を決めて進学する生徒もいることです。 たまに塾の影響を強く受けているような子はいるものの、私の時代のように「いい大学を出て、いい会社へ」という発想は総じてありません。―再任用を含め10年を同じ学校で過ごせたことも大きかったのでは? その通りで、数年では、できることは限られていたでしょう。ただ、学校には校風というものがあり、それは校長が変わっても受け継がれていくわけです。大改革はできないかもしれないけれど、環境づくりをして、次に託すことはできるはずです。 一方で、学校は生徒がつくるものだとも思っています。子どもだって変えられる。実際、服装の自由化も定期テストの廃止も、生徒総会における生徒の発案から始まったものなんです。 教師も同様、学校や社会を変える力をもっています。たまに、そうしたカリスマ的な先生が表に出てくるじゃないですか。カッコよく言えば、誰でも世界は変えられる。特に今は、ネットを通じて世界中の仲間とつながることができます。声を上げてほしいし、怒りをもってほしいと思います。―西郷先生は、「弱い立場にいる子どもを、大人の都合で押し込めるな」という怒りが原動力でした。ただ、怒りの対象を広げ過ぎると、「自分が怒ったところで」となりそうですが。 いや、声に出さないとダメですよ。社会の変革なしに、自分の幸せはありません。確かに、個人でできることは限られますし、私がしてきたことも狭い枠内でのことでした。でも、思いは常に外を向いていました。そこにあったのは「権力の言いなりになるものか。力及ばず、変えられないこともあるけれど、自分も、あんたたちの思い通りにはならないぞ」という反骨精神です。 子どもたちが誇りをもち、安心して住める国にするため、今、何をすべきか考えてほしい。力のある者が都合の良いことを押しつけてくる理不尽さに怒りの声を上げてほしい。偉そうになりましたが、心からそう思います。もあって、管理職を目指すようになりました。 そうして桜丘中に来たのですが、当初は目の前のことに対応していただけ。転機は、大阪市立大空小学校の日常を描いた映画『みんなの学校』を観たことで訪れました。同校は、虐待、貧困、障がいを抱えた子を含め、全員が安心して学べる小学校ですが、映画の終盤、ある保護者が「でも、卒業したら行くところがない」と吐露したんです。それを見た瞬間、「ならば、大空小の中学校版をつくろう」と、ビジョンが明確になりました。「すべての子が3年間楽しく過ごせる学校」という方針を打ち出したのもその頃です。―そうして小・中がつながったとして次の受け皿である高校への期待は? 偉そうなことは言いたくありませんが、一人ひとりに意識を向けてほしい。起立性調節障害で朝、起きられない生徒がいて、本校では登校時間を自由にするなどして対応しましたが、高校ではサボリと見なされ、退学を余儀なくされてしまいました。また、聴覚過敏の生徒に配慮して、本校では力のある者が自分たちの都合を押しつける理不尽さに怒りをもて誰でも学校は変えられる社会さえ変える力がある新採で入って3年目。多くのことを学びました。授業中、寝ている生徒がいても、それは教師の責任だという学校文化の中で必死に工夫してきました。怒鳴って起こすのは簡単ですが、それではつまらない。寝ている生徒にも理由があるのです。そうやって入学時には落ち着きがなかったのに、3学期、そして学年が上がるにつれて互いに思いやりをもった集団に成長していきます。ただ、今の状態がベストということはなく変わり続けなくてはいけません。例えば、中には「校則や制服などルールがあるほうがラク」と思っている生徒もいて、そういう子にとっては「3年間楽しく過ごす」ことができていない可能性もあるわけです。どうすれば、一人ひとりが幸せになれるか、考え続けていきたいです。(松永 拓先生)102020 MAY Vol.432

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