キャリアガイダンスVol.432
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熊本県立鹿本高校では、生徒が仮想の市の職員として課題解決に挑む「バーチャル市役所」など、総合的な学習の時間(以下、総学)で先進的な取組を行ってきた。その伝統は今なお健在だが、主幹教諭の菊川雅子先生はある課題も感じていたという。 「活動内容がしっかりとあることで、逆に引き継ぐ先生たちが、その活動についてよく考え議論する機会を逸していた部分があったのです。『なぜこれをやるのか』という目的が曖昧になり、負担感が増し、形骸化しはじめていないかと感じていました」 一方、教科の授業については別の課題を抱えていた。生徒の授業評価が、低学年ほど低く、校長先生としては「中学校で協働学習などが増えているのに対し、本校の教科の授業は講義中心で、入学した生徒の意欲を削いでいるのでは」と分析していたのだ。 両者にまたがる「生徒の課題」もあった。総学や各教科の学びが、生徒のなかでは別々のもので「つながっていない」。社会に出たら、さまざまな知見を横断的に活用していくのに、その土台が築かれていないのだ。 そこで校長先生の呼びかけの下、全校で取り組んだのが、クロスカリキュラムを軸にした授業改善だった。 ねらいは二つあった。 一つは、生徒に「学問のつながり」を感じてもらい、学んだことを横断的に活用していく力を育むこと。 もう一つは、クロスカリキュラムを起点に「職場の対話」を増やし、何のために何をするのか、日々の教育の目的や活動を、みんなで改めて形づくることだ。指導教諭の川元隆一先生はその目指すところを「先生たちがやらされ感を抱かず、『自分たちで創った』という実感をもって活動を行うこと」と表現する。また、菊川先生は、2019年度から始まった総合的な探究の時間(以下、総探)も見すえた取組であると言及した。 「校長先生を中心に『一緒に創り上げるプロセスが大事ではないか』という話をしていました。先生同士が一緒に授業を創る。さらに、生徒からの問いに対して、各教科の先生たちが正解はわからないけれども一緒に考えて答えを見つけていく。つまりは生徒とも一緒に授業を創る、それが総探になると思うのです」1896年開校/普通科/生徒数560人(男子342人・女子218人)/進路状況(2019年3月卒業)大学149人・短大8人・専門学校等41人・就職22人・その他11人学校データ英語のクロスカリキュラムでは、化学や物理など組む教科に合わせて、川元先生がその分野に通じるALT(外国語指導助手)を探して招聘。ALTの新たな可能性を切り拓く取組としても注目された。また、授業ではクロスカリキュラムに限らず図書館を最大限活用。学校司書の藤掛真代先生は、「研究開発部に入り、授業に使える本を他校などからも借りて提供しやすくなった」という。また、「部活のためなど自発的な調べ物でも本を借りる生徒が現れた」そうで、それが嬉しいという。※TT……チームティーチング写真左から、研究開発部の川元隆一先生(指導教諭・英語)、松永 猛先生(数学)、藤掛真代先生(学校司書)、森 孝文先生(生物)、菊川雅子先生(主幹教諭・家庭科)学問のつながりを感じて横断的に活用できる人に2019年度のクロスカリキュラム授業例図1取材・文/松井大助鹿本高校(熊本・県立)先進的な取組も「いずれ形骸化する」、この壁を越えるためにクロスカリキュラムを軸とした「授業改善」で「職場の対話」と「生徒の学びのつながり」を促す形式クロスカリキュラム学習内容5月【TT形式】物理×体育「100mを速く走るには?」100m走のタイムを数カ所で計測、計測結果を基に走るときに意識することを話し合い、ワークシート記入、実践10月【リレー形式】数学×物理×体育「ボールを効率的に飛ばすにはどうしたら良いか?」ボールを飛ばす角度や初速を変えた飛距離をパソコンでシミュレーション、体育でバッティングマシンを用い実践11月【TT形式】英語×化学実験「身近な物質のpH」英語で化学実験「中和滴定」に取り組み、表現の違いや共通点にも注目する(県内の化学専門ALT招聘)11月【リレー形式】数学×家庭「ベストなスロープを提案しよう」家庭科で学んだ「バリアフリー法」の基準を満たすスロープを三角比を用いて計算し表現する12月【教科横断型ジグソー法】生物×化学×家庭×倫理×国語×保健「バイオテクノロジーを考える」生物の授業で実施。生徒が放課後等を活用して、バイオテクノロジー活用分野に関する教科担当者から関連内容を学び、再度、生物の時間に多角的な視点で情報共有12月【TT形式】英語×物理実験「What is heat?」英語で物理実験「ブラウン運動」に取り組み、表現の違いや共通点にも注目する(県内の物理専門ALT招聘)先生たちの思いを重ね合わせ、新たなチャレンジに向かう学校改革のテーマは学校によって異なりますが、原動力になっているのは、それを支える先生方の“思い”。一人ひとり異なる生徒たちや教育への思いを重ね合わせ、改革の流れをつくっている高校の事例を紹介します。実践事例レポート142020 MAY Vol.432
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