キャリアガイダンスVol.432
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  具体的には何をどう進めたのか。 1年目となる2018年度には、「高校生に一番感覚が近い」として抜擢された若手の先生6人前後が、夏休みに数回集まり、クロスカリキュラムのアイデア出しを実施。そこで出た64の授業案を、今度は各教科主任も交えた会議で、教科バランスや時期も考えて、10案程度に絞り、次年度の計画に盛り込んだ。 翌2019年度には「研究開発部」を創設。授業改善・クロスカリキュラム・総探・図書館活用の4テーマを研究する校務分掌だ。各学年から若手の先生が2人ずつ、そこに学校司書、菊川先生、川元先生も加わり、毎週、1コマを使って全員で話し合う時間を、時間割の中に組み込んだ。 また、時間割には「総探の研究の時間」と称する1コマも設け、こちらでは学年団ごとに先生たちで集まり、授業のことを話し合うようにした。 そうして、研究開発部にも学年団にも所属する若手の先生を中心に、授業改善の対話を全校に広げた形だ。 これらの取組には「忙しくなる」との反発もあった。だがベテランの先生が「せっかく若手が一生懸命考えてくれたのだから、やれることはやりましょうよ」と呼びかけてくれたという。次第に、若手が中心に発案し、それを経験豊富な先生が肉付けなどでサポートし、みんなで授業改善に取り組む空気ができていった。 その空気感を、研究開発部のクロスカリキュラム担当の森 孝文先生と、部長の川元先生が一層後押しする。 「クロスカリキュラムや授業改善を重たく感じず、みんなが気軽にできるようにしたかったんです。そこで『細かい指導案なんていりません。この先生と組んだら面白そうぐらいから始めましょう』と言って、僕もどんどん意見を出しました。実践後は記録を残し、今後参考にできる資料は蓄積するようにして」(森先生) 「指導案は未完成でいいので、研究開発部の会議や、総探の研究の時間に、おのおのが発案して周囲から意見をもらおう、ということですね。そうすると授業案が『みんなで創ったもの』になるわけです」(川元先生) 実際、研究開発部の松永 猛先生は、複数の教科と組んで「世の中のことを数学で捉える授業」を創ってきたのだが、「毎週、議論できる人がいたので頓挫せずに進められた」と語る。 「他教科の先生も、同じ数学科の先生も、準備を手伝ってくださったんです。僕の提案を、後日、ベテランの数学の先生がご自身の授業により高いレベルで取り入れてくれたこともあります。嬉しかったです」 実はクロスカリキュラムに注力することは、当初、研究開発部の先生でさえ疑問を感じたそうだ。森先生は、校長室に直談判に行ったほど。 けれども、「職場の対話」を増やすねらいもあると校長先生から聴いて、それぞれの先生が自分の中の思いと重ね合わせて、共鳴したのだという。 「20代半ばから『俺は教科書を教えるために教師になったのか?』と自問するようになり、学校の在り方も正直『これでいいのか?』と思っていたんです。先生同士の対話のためならやりたいと思いました」(森先生) 「本校に来る前、教育センターにいた際に『これからの授業は、知識理解とともに、資質・能力の育成を同時に行う必要がある。教え込むことのできない資質・能力をどのように育成していくのか』と強く思うようになり、このテーマをみんなでもっと話したかったんです」(菊川先生) 「『優秀な教員だけ集める組織』を目指すより、『今いる教員がお互いの考えに耳を傾け、それぞれの強みが最大限に生かされる組織』にできたら、と思っていたんですよ」(川元先生) そうして対話を重ねた結果、先生たちの授業への認識も深まった。 「クロスカリキュラムは一つのテーマからいろいろな学問に枝葉を伸ばします。一方、課題研究の総探は、いろいろな学問を集約して一つのテーマを考えます。ちょうど逆の流れなので、クロスカリキュラムを経験すると、総探では生徒が教科横断をしやすくなるんじゃないかと。各教科と総探の橋渡し的な存在になることがわかってきたんです。今はこうした授業のつながりをさらに強めようと、総学からの蓄積がある総探の活動も見直そうと話し合っています」(森先生) 今後の展望としては、川元先生は「研究開発部がなくてもいい環境――先生たちも生徒たちも普段から生き生きと対話をする学校にしていきたい」と思っているそうだ。松永先生は、「入試の変化などに対応しつつ、軸としてはぶれない柱を自分たちで築いていきたい」と考えている。写真左は、各教科主任を交えたクロスカリキュラムの年間計画の作成。写真右は、物理×数学×体育の授業で、ボールを飛ばす角度や初速をシミュレーションしているところ。クロスカリキュラムのアイデア出し。校長先生がこの取組にかける思いを語ったあとで、若手の先生が中心になって複数の教科の知見を生かせるような授業テーマを考えた。教科を越えて話し合う場を若手の先生を中心に創出対話による情報共有を多様な先生が求めていた※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のものになります未来の学校は“今日”の中にある実践事例レポート152020 MAY Vol.432

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