キャリアガイダンスVol.432
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 普通科と工業技術科を設置し、地域の多様な生徒が通う三浦学苑高校。十数年前まで「生徒指導が大変な学校」だったが、今や活発な探究活動と国際バカロレア教育(IB)で知られている。なぜこれほどの変貌を遂げることができたのか。その軌跡を辿ってみたい。 同校が改革への第一歩を踏み出したのは2001年のことだ。当時、多くの生徒は「卒業証書がもらえればいい」との意識で生活や服装が乱れ、授業の成立は困難。教員にも「どうせ何をやっても無駄」と諦めムードがあった。野のざくら櫻慎二先生は「本校の教員であることを人に胸を張って言えなかった」という。 そんな状況を変えていこうと、03年度の学習指導要領改訂のために発足した新カリキュラム検討委員会が動き始めた。「学習指導要領改訂をきっかけとし、学校全体が本来どうあるべきかから見直したかった」と、メンバーとなった野櫻先生は振り返る。 まずは現状を客観的に見つめるため、同校の印象について校内外にアンケートを実施。その厳しい評価を使って改革が急務であることを示し、教員に理解を求めた。また、同校の強みが生徒指導にあることを確認し、この点を軸として改革に着手した。 「当時の生徒指導は教員個人の力量、裁量で行っていましたが、統一的な指導方針と基準を作り、組織的な指導の体制を整備しました」(野櫻先生) 改革の滑り出しは決して順調とは言えなかった。委員会が改革の必要性や提案を発信するが、変化や新しいことへの教員の反発や負担感が大きな壁となった。野櫻先生は書籍や外部ワークショップに打開策を求めるなか、ある一節に出合ったことが転機になったという。 「それは『自分が変われば相手も変わる』ということ。なぜ理解してくれないのかと責めるのではなく、相手が理解しやすく説明するよう、自分のやり方を変えてみることにしたのです」 そんなアプローチの変化が改革を軌道に乗せたと、中村洋士先生は考える。 「何かしなければいけないという思いはあっても、形にできない先生が多かった。1929年開校/普通科・工業技術科/1280人(男子420人・女子860人)/進路状況(2020年3月卒業)大学239人・短大26人・専門学校111人・就職59人・その他8人学校データ三浦学苑高校の改革イメージ図2強みである生徒指導から始めた改革が、学習指導や進路指導を効果的に動かした。写真左から、教務運営グループ長・野櫻慎二先生、入試広報委員長・中村洋士先生、進路指導グループ長・佐々木綱衛先生。学習指導要領の改訂を機に強みを活かした改革に着手周囲の意識を変えるにはまず「自分が変わる」三浦学苑高校 改革のステップ図1【改革前】●教員個人の力量による指導が中心~2000年度【改革1期】●「新教育課程検討委員会」発足。 カリキュラムをはじめ学校教育全体を見直し2001年度~新しい動きによる混乱【改革2期】●学習指導要領改訂。 1学年より新教育課程実施●生徒指導の統一化●学習指導の強化●進路指導の強化2003年度~学年主導から校務分掌主導へ【改革3期】●中高接続の工夫●学び直しの導入2009年度(創立80周年)~各組織の活性化【改革4期】●建学の精神を現代版に翻訳●主体的学習者育成のための「特進コース」設置2013年度~原点回帰【改革5期】●学校のミッション、学校教育目標、 ビジョン(育てたい生徒像)検討●IB認定校を目指した準備2017年度~学校のミッション・ビジョンの再構築●「IBコース」設置2020年度取材・文/藤崎雅子三浦学苑高校(神奈川・私立)強みの生徒指導を起点に段階的に進めた生徒も教員もワクワク・チャレンジを続ける学校づくり「生徒指導が大変な学校」が、国際バカロレア認定校へ学習指導進路指導生徒指導162020 MAY Vol.432

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