キャリアガイダンスVol.432
17/64
根拠を示す資料を作り、理論立てて対話を重ねることで、先生方の共感を引き出し、徐々に賛同者や協力者が増えていったように感じます」 こうして生徒指導を起点とし、授業規律の徹底や講習会の整備などの教科指導の強化、そして将来の目標を意識させる進路指導の強化へと改革の歯車を回していった。改革1年目に入学した学年の卒業時進路状況では、例年100人前後いたフリーターや進路未決定が半数に減少。やればできるという手応えが、各分掌の取組の充実をさらに加速させていった。 生徒指導が落ち着き、各分掌の活性化が進んできたとき、同校が取り組んだのは「本校は何を目指すのか」という学校の原点に立ち返ることだ。「学校全体としてバランスよく改革を続けるための指針となるものが必要だった」(野櫻先生)。古い資料を紐解き、古参の教員にヒアリングし、埋もれていた建学の精神を「質実剛健」「自主独立」という2語に集約して学校全体で共有。これを具現化するために何が必要かという視点から、改革を進めるようになった。 そのなかで建学の精神に通じる〝主体的な学習者〞の育成を掲げて13年に立ち上げたのが、「特進コース」だった。 「勉強量を増やすことで進学実績は上がりました。しかし、高校時代に主体性を十分育てられなかった生徒が、卒業後に何をしていいかわからなくなって大学を中退したり、就職に向けて動けなかったりしているのを知り、それまでのやり方に疑問をもつようになったのです。学校と家の往復ばかりの生徒たち。閉じられた学びを社会に開いていきたい、社会の中で自ら気づき行動する学びの場を充実させたいと考えるようになりました」(野櫻先生) 社会の課題や企業からのミッションに取り組む探究プログラムや、経済産業省「未来の教室」を活用した地域の観光政策を立案するプロジェクトなどを次々導入。教科学習にも積極的に探究活動を取り入れてきた。さらに、特進コースで成果があがった探究プログラムを他のコースでも導入するなど、学校全体にも広げている。生徒は関心のあるテーマの外部イベントがあれば自ら参加するようになり、課外活動として地域の魅力発信に取り組むグループも出てきた。 特進コースの新しい学びの立ち上げに、佐々木綱衛先生は強い思いをもって取り組んできたという。 「私が教員になったのは、自分の軸をもった主体性のある生徒を育てたかったから。それにはまず、自分がそう行動できる人であろうと、新しいことにも挑戦してきました。生徒が校内外で活動的になることで、生徒自身が成長するのはもちろん、地域を元気にすることもできる。その感触が、次のチャレンジへの原動力になっています」 20年度、同校は新たなフェーズに入った。地域に根差した国際人の育成を目標とする「IBコース」がスタートしたのだ。 「校内外で活動する機会が充実し、生徒の主体性が向上してきましたが、『結局、受験勉強すればいいんでしょ?』という意識が根強くある。それを、探究・協働・概念理解を重視するIBのプログラムを活用することで変えていきたいと考えたのです。IBコースをきっかけとして、多くの教員でIB教育の理念と手法を共有し、学校全体の教育を変えていくという波及効果を狙っています」(野櫻先生) こうして、授業の成立すら困難だった学校が、IB認定校になった。改革を牽引してきた一人である中村先生は、「生徒にとってより良い環境にしたいという思いがあるから、大変なことも乗り越えることができた。学校が変わっていくのが楽しかった」と振り返る。 10年後の100周年を見据えて、どういう学校を創りたいかを校内で語り合い、言葉を紡ぎ合わせ、「生徒も教員もワクワクする、チャレンジする学校」というキャッチコピーを掲げた同校。「学校はこういうものだという概念を取っ払っていきたい。そのほうが面白い」と、佐々木先生は今後の展望を語る。 「現状に満足した時点で、問題や課題が見えなくなります。まだ何かできるのではないか。常にその視点をもって自分自身も成長し、変化を楽しんでいきたいですね」(野櫻先生)経済産業省「未来の教室」に採択された、観光ビッグデータを使って地域の観光政策を立案する探究型学習に取り組む特進コースの生徒。国語の授業での取組を発展させ、生徒主体で地域課題を議論するイベントを開催。外部から約200人が参加。「もっと学校を地域に開いていきたい」と佐々木先生。「進学実績」ではなく「主体的な学習者の育成」に軸足IBの教育方針を活用し教員の意識改革を加速進路状況の推移図31998年度2008年度2018年度大学短大専門学校就職その他(進学浪人・就職浪人・フリーター・進路未定・ほか)100%80%60%40%20%0%1527272665328123392624655未来の学校は“今日”の中にある実践事例レポート172020 MAY Vol.432
元のページ
../index.html#17