キャリアガイダンスVol.432
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 学校全体の動きを大きく加速させたのが、19年度研究テーマにSDGs(持続的な開発目標)を取り入れたことだ。SDGsにいち早く着目し、希望生徒向けに行ったワークショップで手応えを感じていた司書教諭、伊吹侑希子先生が推進役となった。 「未来の社会を担っていく子どもたちだからこそ、社会とつながっているというリアルな感覚をもって学校の学びに取り組んでほしい。そのきっかけにSDGsを使うことで、教科ごとでばらばらだった学びを一本に紐づけることができ、生徒の学びの幅が広がるのではないかと考えました」(伊吹先生) 伊吹先生は独自にSDGsについて学び、情報収集においてどの教科にも生も多いようです」(山田教頭) また、もう一つの仕掛けが、17年度に始めた、学校全体で共通のテーマを置いて取り組む授業改善だ。年度始めに設定した研究テーマに沿って、各教科が年間指導計画を策定し、授業研究に取り組む(図3)。「公開授業研究大会」も開催し、外部の教育関係者も交えて学び合う。 「特定分野の研究発表と違い、すべての教科が対象となるのがポイント。全教員が当事者として授業改善に取り組んでいます」(山田教頭)関わりのある図書館という立場から、各教科の授業作りを支援。他の教員も、自ら校外の勉強会に参加してヒントを得るなどし、新しい授業を作った。例えば数学では、所得格差を数値化する投資ゲームを通じて、格差の生まれる原因とその対策を考察。美術では環境に優しい素材による版画制作から環境問題を考えた。また、書道を取り入れながら和歌からジェンダーを読み解く、国語科と芸術科の教科横断型授業なども実施された。 SDGsによる授業改善が進んだポイントは、「面白がる」だという。 「教員が本気で面白いと思って授業を行うことで、生徒が楽しく取り組み、他の教員にも伝播した」(百田先生) さらに生徒も、SDGsをきっかけに授業外でも活動をするように。図書サークルの生徒は、食堂のプラスチックごみ削減の呼びかけや、災害発生時の行動について学ぶカードゲームの考案など、自分たちに何ができるか考え行動している。また、ザンビア共和国を訪問した教員の話に触発された生徒が立ち上がり、不要となった文房具を集めて同国に送る教育支援活動を行った。 そんな状況を見て、山田教頭は「教員も、生徒も、主体性をもってチャレンジする。そんな学校の〝文化〞が醸成されてきた」と実感。伊吹先生は「これこそが学校の価値。生徒には知識をつけるだけではなく、人が集まる学校だからこそできる経験をたくさんしてほしい」との思いを強めているという。 20年度は研究テーマに「STEAM教育」を掲げた。SDGsの取組をベースに、これからの社会ではどの分野でも必要となる科学と芸術の視点を取り入れ、来年度に学校法人の合併を予定している京都先端科学大学とも連携しながら、さらなる授業改善に取り組む。こうして、教員が目標をもって挑戦し、互いに学び合う。その積み重ねで、同校は進化を続けていきそうだ。ザンビア共和国の学校の先生と生徒が、2019年に京都学園を訪問。交流の始まりは、美術の教員の現地視察によるもの。図書サークルの生徒が開発した災害ミッションゲーム。カードを使って、災害発生時にどんな立場の人が何を使ってどう行動すると良いかを考える。学校のさまざまな学びと社会をSDGsで紐づける教員も、生徒も、主体的に挑戦する文化に「教職員リトリート大会」プログラムの例(2019年度)図2❶実践報告(120分) •「KOA Global Studies」(国際コースの探究)での取組 •SGHの取組とその成果 •SDGsをテーマとした図書館教養講座の取組❷ワークショップ(90分) ※a~cのいずれか一つを選択して参加 •a:SDGsカードゲーム   (「世界一大きな授業」での実践) •b:クエストエデュケーション •c:ロボット「Pepper」を用いたプログラミング❸実践報告(50分) •「地球学」(中学校体験学習)の取組 •「Science Global Studies」   (特進ADVANCEDコースの探究)の取組テーマ:はじめよう、総合的な探究の時間※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のものになります2017年度「主体的・対話的で深い学び」の視点に立ち、質の高い学びをめざす2018年度社会が変われば、授業が変わる~新学習指導要領を見据えて~2019年度授業が変われば、社会が変わる~京都学園中高で取り組むSDGs~2020年度STEAM教育~SDGsの視点を踏まえて~ワークショップでSDGsカードゲームを体験。授業改善の研究テーマ図3未来の学校は“今日”の中にある実践事例レポート192020 MAY Vol.432

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