キャリアガイダンスVol.432
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 例えば生徒会は、一般的な生徒会の組織形態に沿って役職に人を当てはめるのではなく、生徒が自分たちに必要な内容・業務を話し合い、目的を明確化したうえで、チーム制という形態による独自の組織を構築した。「より水都らしい学校を目指して、今までにない学校をつくろう。すべての生徒が安心して学校生活を送れるようにしよう」というミッションの下、GAPS(課外活動)、SNS、風紀に関する3つのチームをつくって運営している(図2)。 同校の部活動にあたるGAPSも、生徒の手で立ち上げてきた。取り組みたいことがある生徒が申請、プレゼンを行い、それを生徒会が安全性、活動場所、期間、費用などを確認したうえで活動を開始するシステムで、現在では30以上のGAPSが存在している。 「前例のない状態から、多様な意見の生徒と教員の間に立ってリーダーシップを発揮して何かを形作っていくのは大変なこと。生徒は苦労しながらも、一生懸命取り組んでいます」(太田教頭) また、社会で必要となるマナーや規範については学校から伝えているが、いわゆる〝校則〞は現在もない。生徒の髪の色やスタイルはさまざまで、携帯電話も教室に持ち込む。 「教員にとっては、細かいルールを決めたほうが楽です。しかし、大人がやっているのに子どもだけ許されないというのはおかしい。ルールを作るときは、教員も生徒も全員が守るものにすべきだと考えています」(太田教頭) カリキュラムでは「英語教育」「国際理解教育」「課題探究型授業」の3つの柱を重視し、その効果的な実践のために国際バカロレア(IB)の教育プログラムを取り入れている(図3)。高校ではグローバル探究科という専門学科を設置しており、2学年から文系重視のグローバルコミュニケーションコース、理系重視のグローバルサイエンスコース、IB資格取得を目指す国際バカロレアコースに分かれて学ぶ。 「本校の特徴は、特定コースだけでなく、全コースにIB教育を取り入れている点。全生徒が『IB英語』や『TOK(知の理論)』を履修し、『IB歴史』や『IB数学』などのIB科目も選択可能です。課外活動もIB教育の一環に位置付け、生徒が主体的に活動できるようにしています」(上床さん) また、多文化共生社会の実現に向けた国際理解教育を行う独自の専門科目「グローバルイシュー探究」を設置。ネイティブ教員が海外での実践を基にプログラム設計し、英語を使って授業を行う。課外では、世界中の若者が集まるカンファレンスへの生徒派遣や、海外大学からのインターン学生との交流など、世界に視野を広げる機会の充実を図っている。 そんななか、一期生には海外大学進学を目指す生徒も少なくない。 「どのコースの生徒にも、偏差値基準で身近なところから進路を選ぶのではなく、世界を視野に入れて自分なりの道を切り拓いていってほしい。その第一段階として、多様な選択肢を伝えることが重要だと考えています」(進路指導主任・郭 山植先生) このような自由な環境で、さまざまな刺激を受けながら学ぶ生徒たち。来校者はしばしば「生徒がいきいきしている」と感想を述べる。郭先生が感じているのは、自分の意見が言える生徒の増加だ。 「例えば体育の授業中は帽子をかぶらないといった暗黙のルールに対しても、合理的な理由がないと思えば、『なぜですか?』と疑問の声を上げることがよくあります。生徒には、将来自立してたくましく生きていってほしい。そのためには、言われたことをそのままやるのではなく、物事を批判的に見て、自分の意見を言えることが大切です。臆せず自分を出せる気概のある生徒が育ってきているなと、頼もしく感じています」(郭先生) 新年度に向けて、生徒から、在校生による入学式での司会進行や、新入生向けイベントの主催などの提案が挙がった。生徒会は、生徒が予算の分配や組織の運営において主体者としてより力を発揮できるよう、NPO法人化に向けた検討を始めた。 「すべて生徒が中心に動く学校が理想。それを許容できる学校システムをどう作っていくかが、我々教員の役割です」(太田教頭) 開校2年目の今、「定期考査のみに偏重しない学習評価にしていきたい」「非認知スキル獲得のためにどんな取組を行っていくか」…と、太田教頭からは次々に新たなテーマがあふれてくる。同校の挑戦はまだ始まったばかりだ。授業には、ペアやグループでの協働学習、課題探究型の学びを積極的に導入。英語、数学、理科、グローバルイシュー探究の授業は、英語を使って行う。海外大学進学も視野に先進的なグローバル教育を実施自分の意見を主張しいきいき学ぶ生徒たち3つの教育の柱図3『21世紀型スキルを身につける』英語教育国際理解教育課題探究型授業英語教育に重点を置いた教育活動自ら課題を発見し解決することを目的とした課題探究型授業の実施自国の伝統や文化に根ざした国際理解教育に重点を置いた教育活動未来の学校は“今日”の中にある実践事例レポート232020 MAY Vol.432

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