キャリアガイダンスVol.432
25/64
10年ほど前、当時小学生だった娘のクラスが学級崩壊してしまったんです。いじめがなくならず、次々にターゲットが変わるような状態でした。原因は、みんな自分に自信がもてないからだと感じました。自信がなければ、自分のことも人のことも攻撃してしまいますから。何かをやり遂げることで自信をつけてほしいと思い、ロケット教室を開催しました。失敗しながら試行錯誤して、いつの間にかみんなで助け合うようになって、最後、ロケットが飛ぶ。みんな、とてもいい顔をしていました。そうするうちに、いじめがなくなったんです。 この経験から、学校には子どもの自信を奪ってしまう仕組みがあるんじゃないかと考えるようになりました。そして、ロケット教室や修学旅行生の受け入れ、中高生向けの講演などを始めました。うちに来る学校を見ていても、生徒に失敗させまいと、先生が場を仕切る姿がよく見られます。でも、本当は失敗はたくさんさせたほうがいい。失敗したときに怒ったり反省させたりするのではなく、「だったら、こうしてみたら?」と声をかける。なぜ失敗したか、次はどうすればうまくいくかにつなげられれば、失敗は失敗じゃない。安全にチャレンジして失敗することができるのも、学校という場の役割だと思うのです 。 今の子どもたちは、理解力があるし思いやりもあって能力が高いのだけれど、主体性が足りない。インターンシップに来る学生も、「何をさせてもらえるんですか」という受け身の姿勢なんです。小学生の頃までは、自分の好きなことや得意なことをやったら評価されます。でも、中学受験を意識する時期から、「そんなことする暇があれば勉強しろ」と言われてしまう。大人が良しと評価することに価値があって、それ以外は価値がない…となってしまう。そうやって育った子どもたちに、自分でやりたいことを見つけて、それに向かって諦めずに努力することの大切さを伝えたい。そんな思いで、活動を続けています。 中高生に向けて講演をするとき、よく先生に「子どもたちに夢を与えてください」と言われるのですが、夢は与えられるものではありません。私は、自分の体験を交えながら、「自分の夢を諦めなくていいよ」という話をするだけです。私自身、幼い頃から宇宙に憧れ、ロケットの仕事をしたいと思ってきました。でも、「どうせ無理」と言われて悔しい思いをしてきました。だから、生徒が感想文に「ロケットや宇宙に興味をもちました」ではなく「自分のやりたいことをやろうと思いました」と書いてくれるのは、とても嬉しいんです。「それはやめたほうがいい」「将来を考えるとこっちがいいんじゃないか」と大人は自分の古い価値観でいろんなことを言ってくるけれど、それを信じないでほしい。自分で判断し、自分が本当にやりたいことをやってほしい。生徒たちにはそう伝えています。 そして、子どもたちには、「自分は有益である」「誰かの役に立てる」ということを実感してもらいたいと思っています。学問や技術は、人を助けるため、社会を良くするために人類が積み重ねてきたものです。その蓄積を学び、さらに新しい知を学べる若い人たちには、世界を救う力があるんです。「そんなこと言っても、どうせできるわけない」という人がいますが、「どうせできない」と思っていることは絶対にできません。私は講演でいつも「思うは招く」という言葉を伝えるのですが、できないと思えばできないし、できると思えばできる。自分を信じること、そして諦めずに続けることは、とても大事なんです。 今、高校教育が大きく変わろうとしているのを感じます。先生方もがんばっていらっしゃることでしょう。先生というのは、生徒にとって影響力のある存在です。先生の言葉で人生が変わる生徒がたくさんいるんです。初心を忘れず誇りと責任感をもって、立ちはだかる壁に負けないでほしいと思います。 教育が変われば社会は大きく変わるはずです。変化の激しい時代、行き先の見えない時代が来るといわれていますが、初めてのことは誰にも何もわかりませんから、先生だって失敗して当然です。今こそ、挑戦するときです。私の夢は、学校を作ること。年齢にかかわらず主体的に学びたいと思ったときに学べる場を作り、これからの社会で必要とされるエンジニアを育てたいと考えています。教育を通じて、 一緒に世界を変えましょう。夢に向かって諦めずに努力することの大切さを伝えたい思うは招く。大事なのは、自分を信じ、諦めないこと教育が変われば、社会は大きく変わる。今こそ挑戦を!取材・文/笹原風花 撮影/川原 亮未来の学校は“今日”の中にある教育こそが、日本の未来を変えていく252020 MAY Vol.432
元のページ
../index.html#25