キャリアガイダンスVol.432
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 愛媛県の西から豊後水道へと延びる佐田岬半島。東西40㎞の細長い半島の先端に「最西端から最先端へ」を掲げる高校がある。1学年の定員は60人だが、2019年度の入学生は30人。分校化の危機にあった三崎高校の志願者は今春、61人へと跳ね上がった。 同校の特徴のひとつは「三崎おこし」をテーマにした総合的な学習の時間。総学の生徒執行委員から発展した「せんたん部」が先導し、イベント開催や半島を舞台とした映画の制作などダイナミックな活動を行っている。 2015年度に総合的な学習の時間の再編を担当したのは、当時教務主任だった津田一幸先生。「私も卒業生ですが、早く都会に出て行きたいという気持ちがありました。また、自己肯定感が低くコミュニケーションが苦手な傾向があった生徒も、地域で活動すると学校では見えない成長を見せてくれることも感じていました。学力も特性も多様な生徒がいる本校で学びの個別最適化を図るには、学校の中だけでは限界があるのではないか。そう考え、地域活動に振り切ることにしました」と言う。 1年目、1年生は地域理解として調べ学習を行い、2年生は地域の課題解決プランを立て、3年生は課題解決のためのアクションに取り組んだ。生徒の希望に応じて「情報発信」「イベント企画・運営」「特産品開発」の3班に分かれて行った実践活動から生まれたのは、地元製菓店と開発した「みっちゃん大福」(左頁下図)。今も後輩がそのPR活動を引き継いでいる。2年目は2年生から「自分たちも考えるだけでなく何かしたい!」という声があがり、3年目には2、3年生が縦割りでプランを立て実行するまでを行うことに。現在は、1年生は3学期から2、3年生の班にインターンとして参加するというスタイルになっている。 地域に出た生徒たちは、初年度から次々にアイデアを形にしはじめた。健康寿命を115歳まで延ばすことを目標にした「みさこうたいそう115」の開発、海洋ゴミになっている漁業用のウキを使った「漂着物アートフェスティバル」の開催など(左頁下図)。自分たちができることを考え活動する生徒たちを大人が応援し、地域での高校の存在感は大きくなっていった。 同校には寮があり、地域外からも生徒が入学している。寮生のひとりでせんたん部2年生の酒井楓斗さんは中学校にほとんど行かず、勉強にも人間関係にも不安があったが、少人数のここでなら頑張れそうだと入学した。「寮だけでなく、学校全体が家族みたい。勉強はちょっとしんどいけど今は普通に学校に行けてるし、学校外の人と関わる機会が多くて普通に人と喋ってる。成長したと思っています」。酒井さんは昨夏、小誌でレポートした全国小規模校サミット※(山形県立小国高校主催)に参加していたが、プレゼンで笑いを取る堂々とした姿が印象的だった。 同校では学校の近隣地域だけでなく、他地域の高校生や大学生、大人との交流も積極的に仕掛けている。きっかけは2016年、愛媛県が開催した高校生向けプロジェクトマネジメント研修。三崎おこし1期生、当時2年生の2人が参加し刺激を受けて「もっと知って!MISAKI」プロジェクトを立案した。三崎にもっとたくさんの人に来てもらいたい、という願いが漂着物アートフェスティバルを生み、活動の中心となるせんたん部が誕生。さらに他校生や大学生を招いての「せんたんミーティング」(左頁下図)を実現させた。 校外との交流によって「大人も同じように頑張っている」「自分たちのやっていることも実はけっこうスゴイ!」といった総合的な学習の時間テーマは「三崎おこし」学校内外、地域内外との交流で殻を破ることができた全校生徒100人に満たない学校で、外部のクリエーターや地域の人とともにダイナミックな地域活動を行う三崎高校。実は困難を抱えて入学する生徒も少なくありません。小規模だからこそ全員に出番があり、生徒たちは成長を実感しているようです。最西端から最先端へ小さな学校だからこそ全員に出番がある取材・文/江森真矢子三崎高校(愛媛・県立)第23回※Vol.429 「生徒と教員と地域の信頼関係が互いを成長させた全国小規模校サミット」で紹介1951年創立/普通科/生徒数108人(男子59人、女子49人)/進路状況大学短大11人、専門学校8人、就職10人、その他1人/地域との協働による高等学校教育改革推進事業研究指定校502020 MAY Vol.432

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