キャリアガイダンスVol.432
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ことに気づき、活動への意欲が生まれた。今では総学での活動成果をもってコンテストなどに参加し、賞を得る生徒も少なくない。酒井さんは「活動の発表のため行く機会のない所に行けて嬉しい、自分の殻を破るのは大変だけど悔いのない生活を送っている」と言う。 同じくせんたん部部長の尾澤里咲さんも地域外から入学し、殻を破ったひとりだ。「先輩たちと一緒に活動しながら発想力や発言力がついたと感じています。うちは先生も生徒も仲が良くて、先生たちは私たちのことをよく見てくれています。暗い顔をしていたら声をかけてくれて、話せば不安がなくなります。それと、チャンスがそこらへんにたくさんあって、掴んだら先生は全力で応援してくれる。私はアイルランドへの短期留学を掴みました」と言う。 入学前は地域活動に興味はなかったが、今では「町に名前や顔を知っていて、挨拶をしてくれる人がいます。一対一の関係を築くことができているのが嬉しい」。そして地域の伝統工芸、裂織りを守り、若者に広めたいと思うようになった。「地域活性に興味があるけれど、地域系学部ではなくて、斜めから。経済学部や工学部で学んで、三崎に仕事をつくれるようになりたい」と考えているそうだ。 一方、楠 彩菜さんは地元・伊方町が大好きで、町をもっと知りたい、元気にしたい、と入学した。今年2月に開催した「せんたん劇場」(下図)では、裏方を担当。イベント班、カフェ班、商品開発班、ツアー班、アート班、情報・防災班、せんたん部に分かれて活動していた各班が学校から少し離れた地区で一緒にさまざまな企画を実践するイベント。初めての全校生徒による催しだ。いつも表に立って活動するせんたん部は、各班や地域との調整に動き、結果は200人の参加者で大盛況。 「みさこうでは普通の学校ではできないことができます。イベントが終わるとメールをくれる郷土館の方がいたり、町長さんと話すこともあって、自分が地域に貢献できている実感があります」という楠さんは、教員になる夢を抱いている。「小学校の頃から地元を好きになってもらって、伊方町を盛り上げたいんです。うちの学校は〝一人ひとりが輝ける学校〞と言っているんですけど、自分がこうなりたい、ということを先生たちが本当になれるように導いてくれる。小さい学校だからこその良さだと思います」。 三崎高校の良さを感じているのは生徒だけではない。「これだけの活動ができる学校はなかなかない」と言うのは河野雄太先生。地域活動の盛んな学校で働きたいと同校を希望した河野先生は、教員になる前にNPO法人や海外で働いていた経験もある。「今後、求められるのは多様な人と関わったり、プロジェクトに取り組んだ経験のある人、本校の取組はその意味でも〝最先端〞です。小さな学校だから全員に出番があり、自分の置かれた場所で咲くことができる生徒が育っていると思います」。 同校の志願者増の背景には、地元伊方町からの財政的支援もある。しかし、寮や公営塾、交通費補助があるだけでは志願者は集まらない。ここで学びたい、そう思わせるのは充実した生活を送り、この学校にきて良かったと思っている在校生・卒業生の姿、そしてそんな学校をつくっている教員たちの在り方なのだろう。先生が私たちを見て全力で応援してくれる小さな学校だから全員に活躍の場がある■ 生徒の活動例●みっちゃん大福地元の特産の柑橘類を白餡で包んだ大福で、後輩が引き継ぎ販売やPRを行っている。初年度から商品化され、2019年には全国の地方新聞社が主催する「こんなのあるんだ大賞」で3万6千点の商品の中から大賞に選ばれた。製作する田村菓子舗は、売り上げの10%をみっちゃん大福基金として三崎おこしの活動資金として寄付している。●せんたんミーティング~先端に出合う。先端で語る。先端であそぶ。先端で叫ぶ。~せんたん部の活動をするなかで「もっと多くの人の活動を知りたい、つながりたい」という気持ちから開催。2日間にわたり、活動事例発表や交流会、生徒がガイドするまち歩き、参加メンバーによる宣言を行う。校内での講演をきっかけに関わるようになったプロジェクトデザイナー、濱田竜也氏の協力を得て開催している。●漂着物アートフェスティバル海洋ゴミとなってしまっている、漁業用の浮き(ブイ)を利活用する「ブイアート」活動を知り、海岸での回収から始めたイベント。廃校になった元中学校校舎を使い、プランター作りや、ブイを使って体を動かす「ブイリンピック」などの企画を実施。●みさこうたいそう1152017年度に健康班として活動していた生徒たちが、愛媛大学社会共創学部の学生の協力を得て開発した体操。高齢者の健康寿命を115歳まで延ばすことを目標にしている。高齢者福祉施設や保育園での普及活動に加え、イベントで披露している。●映画『せんたんビギンズ』せんたん部が中心となり、映像作家や美術作家の協力を得て制作した60分の青春ムービー。せんたん部発足の経緯をモチーフに、即興的にセリフやストーリーを組み立てながら作りあげられた。生徒は撮影スタッフや出演者として活躍。地元住民も出演した映画は、初回の町内上映は満席で急遽増席。せんたん劇場でも上映された。●せんたん劇場学校から少し離れた大久地区を一つの劇場に見立て、三崎高生と住民が交流を深めるイベント。2020年2月、2日間にわたって行われた。「集落でであう」「集落をあるく」「集落をかたる」「集落であそぶ」を4本柱にしたプログラム。地元に伝わる踊りの披露、まち歩きガイドツアー、防災についてのトークイベントなど、全校生徒が役割をもって開催した。●その他みさこうマルシェの開催/ブイアートワークショップの開催/「あいたおる」「裂織りシュシュ」などの商品開発/地域防災研究/各種地域イベントへの参加/全国各地での実践報告やカンファレンスへの参加 など(写真左から)津田一幸先生(地域協働課課長)、酒井楓斗さん、尾澤里咲さん、楠 彩菜さん、河野雄太先生(地域協働課、せんたん部顧問)512020 MAY Vol.432
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