キャリアガイダンスVol.432
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生徒やその保護者が進学を希望している場合、先生は当然、受験がうまくいくように応援したいと思うでしょう。でもそのために教師が教え込むことは、実は危険ではないか。そんな思いから授業を見直した先生の実践をご紹介します。取材・文/松井大助撮影/平山 諭あったかもしれない。けれども、「今はVUCA(※1)と言われるように、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が高まった時代」であり、これという正解はない。 「どこの大学や何々の職業という目標を決めて、『ゴール逆算型』の努力を生徒に求める指導モデルは、もう機能しないのでは、と僕は思っています。一本道では時勢の変化に対応できないリスクが高いので。しかもゴールまでの『足りない部分』ばかり教員から指摘されるので、生徒の自己肯定感はどんどん下がっていきます」 だから堀内先生は、広尾学園中学校・高校での自身の数学の授業では、目指すべき明確な生徒像を置いていない。それよりも生徒が自分で考え、やりたいように取り組み、おのおのが気づきを得て、「生徒がこの先どうなるかわからない」状態になることを目指している。 「そうして自分で考えて動き出した子たちが、自分たちの思う社会を築いていけばいいんじゃないかな、と思うのです」 しかし、大学受験も念頭に置くと、3年間で身につけるべき学習内容が厳然としてあるはずの数学で、堀内先生はどうやって「生徒が自分で考え、やりたいようにやる」授業を実現させているのか。 堀内陽介先生は以前に「世の中から求められる『いい先生』のイメージ」を言語化してみたことがある。「思い浮かんだのは、生徒の努力を最小限にしてくれる先生でした。『これだけをやればいい』とずばっと教えてくれる」 でもそれは、本当はとんでもないことではないだろうか、と感じたという。 「例えば数学の授業なら、まず解き方を教えて、『こうやってごらん』と生徒に促し、教えた解法がそのまま使える問題をひたすら演習させるわけです。ここには生徒が自分で考える余地がどこにもない。隠れたカリキュラムとして『自分で考えてはいけない』ということを教え込んでいるんですよ。僕が自戒を込めて、罪ですらあると思うのは、そんな教え込みをものすごい圧で続けたら、自分の人生まで『自分で考えてはいけない、既にある正解から選ばないといけない』とする価値観を生徒に植えつけかねないことです。人生を振り返ったときに『自分らしい生き方をできなかったなあ』と感じたら、辛いと思うんですよね。生徒にとって、学校ってなんなのだろう、と思うのです」 自分で考えず周囲の「こうすればいい」に従う人生は、成功モデルがわかりやすかった一昔前なら、まだ飲み込めた部分が教え込みで「考えるな」と求めていくなら罪ですらある生徒に対する想い自由に考えていい環境で各自がやりたいように解く授業の実践「わからない」と言える教師でありたいです生徒を見取って授業をデザイン広尾学園中学校・高校(東京・私立)(※1) VUCA……Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、 Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字。大学院を卒業後、2008年度より広尾学園中学校・高校の教員に。生徒の「考える」態度を育むために、2013年度よりWebで視聴できる動画を活用した反転授業に取り組む。現在は医進・サイエンスコースにおいて、数学の授業および、数学研究チームの研究指導を担当している。数学堀内陽介先生今号の先生542020 MAY Vol.432
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