キャリアガイダンスVol.432
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■ 広尾学園中学校・高校(東京・私立)一つの問題に対して、複数の解法をみんなで考える時間。一人でじっくりと考えていた生徒もいれば、席が近い者同士でアイデアを出し合って考えていた生徒もいた。授業の冒頭で行う、予習動画を踏まえたチェックテスト。解説も行うが、動画を見忘れた生徒向けで、動画で理解できている生徒には「感想を裏面に書いておこう」という促しも。堀内先生の授業では「各自がPCを使いたいときに使えばいい」とされている。春先に全員に対してPCによる情報検索やグラフ作成ソフトの使い方をレクチャー、以降の使い方は自由なのだ。だから、同じ問題を紙と鉛筆で考える生徒もいれば、PCを使って考える生徒もいる。 さらに堀内先生は、信頼できると判断したWebで視聴できるEDuPA(※2)の高校数学の講義動画も活用。授業前に、スマホやPCで指定の動画を見てくることを生徒に求め、教科書の内容をわかりやすい講義でいつでも予習できるようにした。当然、動画は復習にも使えるわけで、そうやって動画で学べる分、授業では説明を減らし、生徒が考える時間を増やした。授業で基礎を学ぶのではなく、各自で基礎を学んできて授業でそれを応用する、いわゆる反転授業の形式だ。 もっとも、堀内先生の授業では、予習用の動画を踏まえたチェックテストと解 軸となる工夫は、授業で扱う問題について「決まった解法を教える」のではなく、「複数の解法をみんなで考える」形にしていることだ。一つ目の解法は、学習中の単元の知識から導ける。でもそれだけでなく、既存の知識をフル動員して、3つ以上や5つ以上の「別解」づくりにも挑むのだ。まずは一人で、もしくは席が近い者同士で話し合って考える。次いでシェアの時間となり、解法を思いついた生徒が名乗り出て、堀内先生が何をどう考えたのかを対話しながら掘り下げ、白板にアイデアを書き取り、全員で共有する。 「カントールという数学者が『数学の本質はその自由性にある』と言っているんですね。解法を覚えるのが数学ではなく、『論理的に正しければどんなふうに考えてもいいのが数学なんだ』ということを、生徒にぜひ感じてほしいんですよ」 また、広尾学園中学校・高校では全生徒が学習用のPCを所持しているのだが、説を最初に行い、生徒は動画を見忘れても、その解説さえ聴けば基礎知識が入り、授業についていける構成にしている。 「チェックテストと解説の本当のねらいは、動画を見ていない生徒に基礎の説明をすることなんです。『それでは反転ではない』と指摘されたこともありますが、僕が目指したいのは『反転授業をすること』ではなく『全員が楽しく参加できること』なので、この形でいいと考えました」 取材した1月の授業では、各自が解法を考えている最中、ある生徒から出された疑問を堀内先生も面白いと感じ、全体に共有した場面があった。ところが別の生徒から見落としを指摘され、「そうだね、ごめん、なんでもない」と撤回した。 最後の解法の共有では、「斜辺の長さが1の直角三角形の面積の最大値を求める」という問題に対して、円の性質を使う解法以外に、相加相乗平均を使った解法を2人の生徒がそれぞれ別のやり方で言及。そのアイデアに教室がどよめいた。 もちろん、堀内先生も相加相乗平均を使った解法を用意していて、自身のやり方も披露した。でも、生徒が考えた解法のほうがより簡潔で洗練されていたのだ。「このやり方はスーパーいいですね。俺のやり方が瞬殺された…」と堀内先生。 生徒が自分で考える授業に取り組むなら、「生徒から何が出てくるかわからない」ことへの心構えをもつことが、最も大事だと堀内先生は考えている。 「生徒のいろいろな考えを拾っていけるか。わからないことがあれば『わからない』と言えるか。そこでごまかすと信用を失い、『生徒と一緒に考える』ことができなくなって授業が崩れます。『わからない』と言えることは、これからの教員の大事な資質なんじゃないでしょうか」何が起きるかわからない授業で教員も考え、悩み、失敗する教育理念は「自律と共生」。女学校として設立され、2007年度の共学化にともない、順心女子学園から現校名に。同年、帰国子女や国際的に活躍したい生徒を受け入れるインターナショナルコースも設置された。2011年度には、医系・理系大学を目指す生徒、医師や研究者になりたい生徒のための医進・サイエンスコースも設置。この両コースの他に、中高完全一貫で幅広い難関大学の理系・文系学部を目指す本科コースがある。(※2) EDuPA……一般社団法人 教育配信基盤機構が無料で提供する講義動画。 EDuPAはEducation(教育)・Distribution(配信)・Platform(基盤)・Association(機構)の略。普通科/1918年創立生徒数(2019年度・高校)906人(男子401人・女子505人)進路状況(2018年度)大学205人(うち海外大学17人)・その他84人〒106-0047 東京都港区南麻布5-1-14 03-3444-7271 https://www.hiroogakuen.ed.jp■ INTERVIEW 堀内先生とは、授業のことから学級経営や進路指導のことまで、職員室で雑談も交えてよく話しています。例えば、授業は全部が「基礎を学んでから応用」でなくてもよく、「応用から入って基礎を学ぶ」形もあるのではないか、とか。僕の担当教科の化学であれば、既存知識を応用して実験・考察をし、生徒自身の発見から、教科書にあるような新たな基礎知識を得る、というようにです。 あるいは、服装のルールについては、ただ注意するのではなく、「中身をよく知らない人には外見で納得させて支持を得ることも必要ではないか」「下級生にもルールを守ってほしいなら、つまりあなたもルールを守らせる側に回るならどう伝えるか」といったことを投げかけ、生徒自身がこの問題を考えるところから取り組もう、とか。 堀内先生は、生徒を信じて生徒に任せることを徹底されていて、そこに共感を覚えます。僕自身、授業でも進路指導でも、正解を示すというより、一緒に考える姿勢を大事にしたいと思っています。化学吉江勝仁先生正解を示すというより一緒に考える姿勢で552020 MAY Vol.432

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