キャリアガイダンスVol.432
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堀内先生は、子どものころから教師になりたかったが、高校時代に一度その夢を諦めかけたという。進学校に通うも、授業で叩き込まれたはずのことをテストで再現できず、「全然できない奴」といった評価も受けて、自信をなくしたからだ。 案の定、大学受験にも失敗した。 それでも段階的に自信を回復することができて、道が拓けていく。 きっかけは、浪人時代のある日を境に「昨日までわからなかった数学の問題が、突然、解けるようになった」ことだ。頭の中にバラバラにあった各単元の知識が横につながり、暗記を頼りに解くのではなく、問題に応じて柔軟に知識を使えるようになったからだった(右のカコミ記事①も参照)。堀内先生は「数学ができるようになった」と初めて実感した。 数学科のある大学に進み、大学院まで数学に打ち込むなかで得たこともあった。「高校時代のように教え込まれるのではなく、数学を自分ですごく考えたら、意味がわからないと思っていた内容も理解できたんです。『自分は考えればわかる人だったんだ』と確認でき、そうしたら本も読めるようになり、ニュースで言っていることもわかるようになったのです」 そんな「考えればわかる」楽しさを、多くの生徒にも知ってほしくて、堀内先生は広尾学園中学校・高校の教師になった。 もっとも、当初は具体的な授業構想はなく、自身が学校や予備校で受けてきた教え込む授業をベースにして、生徒の成績や進学実績を上げようと奮闘した。 転機となったのは、学校に「医進・サイエンスコース」が創設された時期に、ある生徒と関わったことだ。医系・理系大学への進学を見すえたコースで、高校1期生を校内の中学3年生から選抜することになったのだが、堀内先生はある生徒を入れることに反対だった。数学の授業でよく寝ていて、成績も芳しくなく、ついてこられない、と思ったからだ。 ところが、同コースで大学でやるような課題研究型の授業を行ったら、その生徒が俄然、生き生きとしてきて、成績もメキメキと伸び、在学中に代数学で学会発表までする快挙を成し遂げたのだ。 堀内先生は驚き、反省したという。「その生徒は『ダメな子』でも『勉強しない子』でもなかった。中学時代に成績が伸びず、授業で寝ていたのは『教員である自分のせいだ』と感じたのです。自分は授業で何をやりたいのか、もう一度ちゃんと整理しよう、と思いました」 授業を見直し始めたのは8年前。一番に心掛けたのは、「どうすれば生徒が数学をやりたくなるか」を追求することだった。 当の本人からも意見をもらおうと、生徒たちの声に耳を傾けるようになった。 また、授業中に生徒が考えたり話し合ったりする時間を、意図的に増やした。「自分で考えると楽しい」というのが、堀内先生が数学にはまった原体験であり、そこを大事にしたかったからだ。 その過程で反転授業を取り入れ、初期のころは、動画で基礎を押さえてから高度な問題にみんなで挑戦した。いろいろな意見が出て盛り上がり、難問を解き切る達成感もあって、手ごたえを感じた。 しかし、1カ月ほどで数人の生徒から「できる子だけが楽しい数学バトルになっている」と指摘された。そこからさらに「全員が楽しく参加できる授業」を模索し、現在のような、一つの問題について「複数の解法をみんなで考える」授業になった。授業ができるまで教え込みの授業で脱落したが「考えればわかる人」だった生徒に向けていた批判の目を自分の授業の質に向けた生徒から意見をもらいながら全員が楽しめる授業を模索HINT&TIPS1「分野を越えて知識を使う」という知識のネットワークは受験にも有効と示す受験が近づくと、生徒は「この問題はこう解け」式で覚えたほうが点を稼げそうで、別解まで考える授業に懐疑的になる。でも実際は、数学は一次関数のように知識が積み上がるのではなく、知識が横につながったときに階段を上るように思考力が高まる。堀内先生は実体験を基に、そのことも生徒に伝えている。2授業中に何をするか選べる幅をつくり生徒が自分で考え、やりたいようにやる一つの問題を、今の単元の知識を使って解いても、別のやり方で解いてもいい。一人でがんばるのも、隣近所で相談するのもOK。PCの検索機能やグラフ作成ソフトを使ってもいい。先生が途中で解説を入れるが、問題に没頭中の人は聴かなくてもいい。やることを生徒が選べるのが、堀内先生の授業の特徴だ。3課題や予習の進め方に選べる幅をつくり生徒が自分で考え、やりたいようにやる見返せる動画の活用で、マイペースで予習や復習をできる環境を実現。課題の出し方も工夫している。例えば問題集には難易度によって「☆」「☆☆☆」など星が示されているが、「星を100個以上集める」といった課題にして、地道に星を稼ぐか、難問に挑戦して星を一気に稼ぐか、生徒が選べるようにしている。4提出義務のない振り返りシートで個々が自分の学びを客観的に振り返る「どんなことを考えたか(正しくなかったことや途中までのものもOK)」「この課題のポイントは何だったか」「この単元では次から何に気をつけるか、どんな学びを得たか」を振り返るシートで、生徒が自分の学びを客観的に振り返ることも後押し。授業後に、これを持って質問に来る生徒もいる。別解づくりに挑んだ問題についての堀内先生の解説。聴き入っている生徒が多いが、あと少しで問題が解けそうでまだ自力で粘りたいなら、一人または複数人で考え続けてもいい。求めたいxやyの変化を、グラフ作成ソフトを使って考える生徒も。562020 MAY Vol.432
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