キャリアガイダンスVol.432
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―この10年、桜丘中学校で行われてきた校則撤廃、定期テストや宿題の廃止、服装の自由化などの大胆な改革について、背景を教えてください。 最初にお伝えしておきますが、子どもたちが困っていなければ改革など必要ないんです。「靴下の色は白に限る」という校則も、生徒に不満がなければ、そのままでも良かった。でも、多くの子どもたちは理不尽な校則に不満をもっていました。私の性分としても、理屈に合わないことは嫌いです。 そこで生活指導主任に、白でなければいけない理由を聞いたところ、「汚れが目立ち、清潔を保てるから」という答えが返ってきました。確かに一理ある。ところが、桜丘中には「セーターの色は紺」という校則もありました。再び理由を尋ねると「派手にならないように」という返事。それはおかしいですよね。黒や白も派手ではないし、靴下の件とも矛盾する。その校則では、生徒から「なぜ紺は良くて、黒はいけないのか」と問われても、「規則だから」としか答えられません。それで、生徒は本当に納得するでしょうか。 個人的な意見ですが、校則には虐待に似た構図があると思っています。虐待を受けた子は、自己防衛のため何事もなかったように振る舞う。非条理な校則も、最初は反発するけれど、普通の公立中学校でありながら、校則や定期テストの廃止など大胆な改革を進めてきた世田谷区立桜丘中学校。この春まで10年間校長を務めた西郷孝彦前校長に、何のために学校はあるのか、そのために教師はどうあるべきか、お話しいただきました。「それは本当に子どものため?」から始まる学校改革取材・文/堀水潤一 撮影/竹内弘真~中学校の現場から~Ⅰ世田谷区立桜丘中学校 前校長西郷孝彦さいごう・たかひこ●1954年生まれ。上智大学理工学部卒業。東京都立の養護学校(特別支援学校)をはじめ、大田区や品川区、世田谷区で数学と理科の教員、教頭を歴任。2010年、世田谷区立桜丘中学校長に就任。「すべての子が3年間楽しく過ごせる学校」を目指した結果、校則や定期テスト、宿題、制服、チャイムの廃止等で注目される。生徒の発達特性に応じたインクルーシブ教育を取り入れ、個性を伸ばす教育を推進。『校則をなくした中学校 たったひとつの校長のルール』(小学館)、『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』(小学館新書、共著)が話題。82020 MAY Vol.432

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