キャリアガイダンスVol.433
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 新潟県立津南中等教育学校は、2017年度よりインターネットを使ったオンライン学習の取組を開始し、例えばタブレットとスタディサプリを組み合わせた英語学習などの試みも展開している。今後の目標として、学校全体で「ICTを活用した指導の充実」を掲げていた。 同校では、コロナ禍で3月に突然休校が決まった際は、約3週間分の学習課題を出し、スタディサプリや教育系SNSのEdmodoで生徒と連絡を取るようにしたという。 しかし、休校中もネット越しに生徒を見取っていた先生たちが、そのやり方では「失敗した部分もあった」という問題意識をもつようになる。 「オンラインで生徒に体調を訊いたりすると、生活習慣が乱れて夕方にしか反応できない生徒がいたのです。課題をまとめて出したものの、がんばりきれない生徒もいて、『どうすれば生徒がペースを崩さずに、意欲的に学べるようになるか』を話し合うようになりました」(教頭・鈴木先生) 4月に学校が再開すると、校長の小林先生と教務主任の小山先生を中心に、次の休校を見すえ準備を進めた。目指したのは、自宅で個別に学習するだけでなく、オンライン上でみんなで集まる機会もつくり、互いに励まし合って学べる環境にすることだ。 そのために、ビデオ会議アプリZoomを使い、オンラインでの朝のホームルームや授業に、教員全員でチャレンジすることにした。校内にはICTにまだ不慣れな先生もいたが、英語学習でICTを活用してきた松井先生が講師となり、教員研修をすることで体制を整えたという。 「非常事態にみんなで同じ方向を向いて動けたように思います。何もしないのは停滞でしかない、とにかく『生徒にとって何が良いか』を常に考え、できることからやろう、と。先生同士の会話が増え、生徒の話をよくするようになりました。各教員がICTの活用を学ぶことも、一人だとくじけたかもしれませんが、研修で支え合って楽しく、なおかつ『このあとは自分がオンラインで生徒をフォローするのだ』という意識から、全員で真剣に取り組めました。Zoomの使い方の研修で先生同士で初めてつながれたときは、みんなから歓声があがりましたからね」(小山先生) 5月には全生徒にオンラインでアンケートを実施、今後の学習の進め方についてさらに示唆を得たという。 例えば、課題の出し方がスタディサプリやEdmodo、紙媒体と、先生によりバラバラだったことで、生徒は情報整理に苦労していた。また、オンライン授業では目や頭の疲れを感じた生徒が多く、長時間は集中しづらいことがわかった。当初より懸念はしていたが、家のネット環境に制限のある生徒が一部参加できなかったり音声が聴き取りづらかったりして学習の遅れを感じており、フォローの必要性を再認識した。 一方、生徒たちが日々の学習にICTを活用することに良い効果も感じていたことが見て取れた。自分のペースで学べる動画や、先生に直接質問できるメッセージ機能。ある生徒は「学び方っていろいろあることを知りました」と感想を寄せた。 「休校が明けたら、授業を元に戻す、と考えるのではなく、今回のことでわかったメリットやデメリットを踏まえて、ICTとどう付き合っていくかを学校単位で検討することが大事だと思っています」(松井先生) 「本校では、ICTの活用を含めた『学びの改善』を今年度のテーマにも据えています。教員と生徒の双方向のやりとりを増やし、探究活動や海外研修で全国や世界中の多様な人と関わり、そのつながりを生かしてオンラインでも学び合う。地方の高校でもここまでできるんだ、ということを先生や生徒たちと一緒に示していきたいです」(小林校長)やってみて、失敗も糧に話し合ってより良い学習へ生徒の実態を捉えながらICTを学びの改善に生かす取材・文/松井大助津南中等教育学校(新潟・県立)ICT活用を通じて活発化した先生同士の対話と協働を基盤に、新たな学びの創造へReport2写真左奥より時計回りに、校長・小林英明先生、小山尚之先生、教頭・鈴木綾乃先生、松井市子先生。2006年設立/普通科/生徒数330人(男子139人・女子191人)/中高一貫校、グローバルな視野をもつための海外研修や海外交流、英語学習を推進学校データZoomによるHRや授業を学校全体で取り組み始めた際には、報道陣にも公開。「先生や生徒たちのがんばりを発信したかった」と小林校長は語る。生徒たちは何を思い、教師はどう動いた? そして、見えてきたもの生徒の学びを支える実践事例152020 JUL. Vol.433

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