キャリアガイダンスVol.433
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 教員へのGoogleアカウントの配布、Wi-FiやiPadなど校内設備の拡充と、ソフト・ハードの両面でICT環境整備を進めてきた掛川西高校。休校前の時点から教員の7〜8割が授業やホームルームでICTを活用するなど、取組が進んでいた。一方、昨年度より櫻井校長の主導の下カリキュラム・マネジメントに取り組み、4つの育てたい資質・能力(主体性・協働性・創造性・自己有用感)を策定。今年度はこれを授業やクラス運営などの実際の活動に落とし込んでいく年と位置付けていた。そんな矢先に、休校が決定した。 新年度が始まり休校が長引くことが予想されると、櫻井校長は即座にICT活用による休校対策の準備を指示した。「4月から生徒は新しいことを学べるはずなのに、学びが止まっている状況は断じて良くない」と考え、「生徒の学ぶ機会を保障するために、学びを前に進めよう」と教員に呼びかけた。地域の進学校としての使命感もあったと言う。この呼びかけが教員の共感を得たのは、育てたい資質・能力というブレない共通認識があったから。「学びを進める方法にはいろいろあるが、大事なのは資質・能力の観点で考えていくこと」と吉川先生。何をやるかではなく、何のためにやるのかに軸を置いた。 そこからは、櫻井校長をはじめとする管理職と吉川先生が率いるICT推進委員会が一丸となり、授業におけるICT活用を進めていった。教員により差が出ることで生徒が不安を感じないよう、全教員が取り組める方法であることを優先し、授業動画の配信を決定。櫻井校長は「できることからでいい。動画は10〜15分でいい」と呼びかけて教員の心理的なハードルを下げることに努め、みんなでがんばろうという空気を醸成していった。 地域人材による技術面のサポートを得ながら、全生徒のICT環境の調査、教員向け研修などと並行して動画制作を進め、4月中旬からは動画視聴と課題学習などを組み合わせて時間割通りの授業を実現。生徒や保護者からは、学びが継続することへの安心や喜びの声が届いた。 動画の制作・配信を通して生まれたのが、教員間の連携や対話だ。従来は各自が授業を設計し、互いにどんな授業をしているかが見えず、「いわば教室という蛸壺に入っていた」(櫻井校長)。それが今回の取組により可視化されたことで、教員同士の学び合いが自然発生的に起こったのだ。「他の先生の授業動画はとても勉強になったし、自分の授業をメタ認知して受け手目線で捉えることで改善点も見えてきた」と吉川先生。さらに、若手教員の力量アップにもつながっているという。 授業動画は教材を映しながら解説するものや教員が登場して解説するものなど創意工夫されており、制作された動画は早くも1000本以上になっている。大多数の生徒が高評価をつけており、繰り返し視聴できる、自分のタイミングで視聴できるというメリットを生徒も感じているようだ。学校再開後の学びについて吉川先生は、「通常の授業と動画のハイブリッドが可能な状態で、選択肢が増えた」とし、「動画では生徒が見えないからこそ、その反応に敏感になる。取り組むなかで気づいたのが、これまでは生徒に与えすぎていたのではないかということ。教員の発言を最小化して授業を生徒に預けることで、生徒の主体的な学びに一層深みが出せると予感している」と語った。 公立校にして先進的な取組を実現している掛川西高校。最後に櫻井校長は、こう語った。「自分たちが生徒のためにやってきたことの意義を信じているが、もしかすると別の方法の方が良かったのかもしれないという不安は常に付きまとう。リスクを抱えつつ、それに耐える覚悟をもって進んでいきたい」。育てたい資質・能力を軸に新しいことを学ぶ機会を担保生徒の主体的な学びを促す授業の在り方を見直す機会に櫻井宏明校長(右)、ICT推進委員長・吉川牧人先生(左)取材・文/笹原風花(上)総合的な探究の時間に予定していた副市長の講演を、急遽、動画で配信した。(下)動画の収録にZoomで参加した生徒らが、地域の拠点病院の医療従事者を応援するためのプロジェクトを立ち上げ、生徒の作品を映像化したプロジェクションマッピングを病院の壁に映し出した。1901年設立/普通科・理数科/生徒数983人(男子519人・女子464人)/学校情報化優良校(2020年度)認定学校データ掛川西高校(静岡・県立)時間割通りの授業配信で生徒の不安を払拭授業の選択肢を増やし、主体的な学びを探究していくReport3162020 JUL. Vol.433

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