キャリアガイダンスVol.433
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 宮崎県立飯野高校では、2014年度から、2〜3学年の生徒が地域に出て自分たちで課題を見つけ、その解決に向けて地域の人と一緒にアクションを起こす、という「実践」重視の探究活動に取り組んできた。 また、その意見交換や発表の場として、全国の高校生が集まるイベントへの参加、自校でのサミット開催、ICTを使った遠隔授業による国内外の同世代や社会人との交流など、「越境的な学び」にも力を入れてきた。 多様な人とふれあって学ぶことを推進してきた同校にとって、密集や密接を避けねばならないコロナ禍は大問題だった。3月の休校前に、インターネットの環境調査を実施し、スタディサプリを活用して、生徒と連絡を取り合う体制を整えた。休校後は、4月以降を見すえてビデオ会議アプリZoomを使った授業も、できる先生から広げていった。だが、人との接触の制限で探究活動は今まで通り行えず、なかには、数カ月準備して春以降にやる予定だった集大成の活動を、中止せざるを得なくなった生徒もいたのだ。 探究活動を統括する梅北先生は、2つの思いを抱いたという。「生徒のやってきたことを止めたくない」という思いと、「こんなときこそ日々の授業で育もうとしてきた『自分なりの課題をもって物事に取り組む力』を発揮してほしい」という期待だ。 そこでZoomによる探究活動の特別授業を1コマ行った。4月から新2〜3年生となる生徒に「今までやってきたことを、ちょっと視点を変えて、コロナ禍に挑戦できることを考えてみよう」と投げかけ、グループごとに話し合ってもらったのだ。 すると、これまでの探究活動で自走する楽しさに目覚めてきた生徒を中心に、さまざまなプロジェクトが立ち上がった。アフターコロナ時代の地元観光PR。手作りマスクや玩具の福祉施設への寄贈。海外オンラインプロジェクトへの参画。テレワーク合唱による動画作成。今までの探究テーマに即した取組もあれば、今だからこその新規の取組も。その姿に触発され、入学したばかりでまだ探究活動をしていない1年生からも、「先輩たちみたいなことをやりたいです」という相談があったという。 「実践を伴う探究活動を始めて6年になりますが、生徒が自分から動きたくなる土壌がこの学校にできつつあるのかな、ということを、今回の生徒たちの姿から感じました」 生徒が学びを止めず動き出したとはいえ、その先にはまだ壁が立ちはだかっている。宮崎県では、学校再開後も対面のグループワークは当面避ける方針。オンラインの併用を含め、生徒同士が学び合う授業をどう実現するか。探究活動では事業所の実習も行ってきたが、今後も同じように受け入れてもらえるとは限らない。地域の人とどのように交流するか。 それらの壁にどう向き合うかも「『生徒と一緒に考える』ことから始めたい」と梅北先生は構想している。 「今の状況をなんとかしたい、という思いからでしょうか、3月以前より、生徒たちのアクションが加速しているのを感じるんです。それだけに、『生徒が自分たちで考え、動き出し、教員がそれを支援する』という、探究活動でやってきたことをすべての教育活動にも広げたいのです。この非常事態は教員にとっても初めての経験。生徒と一緒に考え、一緒に学ぶという姿勢で、これからの教育活動を形づくれたらと思っています」探究活動の一環として生徒がコロナ禍の課題に挑戦未知の非常事態だからこそ生徒と一緒に考え、一緒に学ぶ進路指導部長キャリア教育推進リーダー梅北瑞輝先生地元の飲食店応援のために、ドライブスルーによるテイクアウトイベントを企画し、地域の人に提案。保育園への玩具の寄贈。今年3月の卒業生には、高校で取り組んだ子育て支援プロジェクトを、大学・専門学校進学後も継続している先輩がいるという。飯野高校(宮崎・県立)これまでの探究活動をベースに自走し始めた生徒と共に考え、共に創るこれからの教育活動Report6取材・文/松井大助1965年設立/普通科・生活文化科/生徒数236人(男子117人・女子119人)/文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」指定校(2019年度~)学校データ生徒たちは何を思い、教師はどう動いた? そして、見えてきたもの生徒の学びを支える実践事例192020 JUL. Vol.433

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