キャリアガイダンスVol.433
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にしてきた授業の良さを再認識させてくれたと思っています。 同時に、これまでの授業を問い直す、またとない機会を与えてくれたとも感じています。例えば、「教えたからといって、学んでいるとは限らないこと」「授業を進めることと、学びを保障することは違うこと」「学力を定着させるためには、学び手の目線に立った組み立てや支援が大切なこと」等々。 そうしたことに気づかないままでいると、旧式の学習観に基づく一斉授業を、オンラインでもそのまま届けるというワナに陥ってしまうでしょう。それは、一方通行の大規模講義や機械的なドリル学習と同じであり、それこそ間違ったメッセージを生徒や社会に与えてしまうと思います。 オンライン授業のポイントの一つは、オンラインを使いつつも、オフラインでの生徒の学びをどれだけ充実させるかです。学びを進めていくためには、実は立ち止まったり、揺さぶられたりする経験が重要です。オンラインでポイントを絞ったサポートをしつつ、オフラインでの自習を充実させる。教師から教わりつつも、教わることから卒業し、自律的に学び続けていく。こうした、主体性をどう育むかという課題は、これまでの授業でも問われてきたわけで、古くて新しい問題を提起しているといえるのです。 デジタルメディアには、効率化、質の追求、機会の拡大といったさまざまな機能がありますが、個別最適化などの手法先行や、テクノロジー先行の「キラキラツール」としての導入が進むと、あたかも万能薬のように映り、「もう学校の授業は必要ない」という誤解を招く恐れもあります。 ところが今回、遠隔授業という、形式としてはむしろレトロな形で現場に普及したことで、従来の授業との対比がしやすくなり、互いの良さが浮き彫りになったと思います。 デジタル環境が強力に整備されることは、遠隔地や病院から通学するなど、今までカバーしきれていなかった生徒の学びの保障や機会の拡大にもつながっていくでしょう。また、学校外のリアルな現場と直接つながることで、オーセンティックな学びも可能にします。大人たちのコロナへの対応やそれをめぐる議論にアクセスし、高校生目線で意見を発信するといった社会参画も容易になるはずです。 今の状況は人類史に残る大変な社会的経験です。何を感じ、どう考え、行動したかを各自が日記に残すだけでも、ちょっとした歴史の資料になるくらいの出来事だと思います。 そうした貴重な経験の一つひとつを学びに変え、人間的な成熟につなげていく。子どもたちに今、何が起きていて、何を考えているのか、ということを確かめていく。そのためには学びの履歴を子どもたちが残していく必要があり、そのとき教師に必要なのが丁寧なノート指導であり、ポートフォリオ指導などです。学びを可視化し、自分の中にきちんと落とし込んでいくよう促し、サポートすることが求められるわけです。授業・生徒との関わり石井英真 (京都大学大学院教育学研究科 准教授)デジタルメディアを活用し学びや生き方にまでつなげる222020 JUL. Vol.433
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