キャリアガイダンスVol.433
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なぜ「地域連携」が必要なのか。それは、学校内だけで学びは完結しないから。また、自ら課題を発見し、問いを立てるためには現場で感じることが必要だからです。生徒が「学びを深めていきたい」と感じたとき、学校という器は狭すぎます。学びのフィールドを地域に広げることで、社会は多様であり、今の学びは未来へつながっていることなどを実感し、それがエネルギー源となって、教科の学びを自ら進める「自走性」につながるのだと思います。 とはいえ、地域社会との連携やそこを舞台にした探究学習は、一朝一夕にできるものではありません。「そんなことよりも受験指導だ」という声が、管理職や保護者にも根強くあるなか、イノベーター的な働きをする先生がいたとしても、組織的な動きにつなげるにはある程度の年月が必要でした。なぜなら、地域の方々と認識や文脈を共有することが難しかったから。例えば「地域課題の解決」といっても、「高校生に何ができるの?」と思われたり、「地域人材の育成」やそのための「資質・能力の育成」といっても、具体的なイメージが伝わりづらかったり。 しかし、今は違います。「地域医療が崩壊寸前」「家計が困窮し、進学さえままならない」といった事態が目の前で起こっているとき、年齢・職業を問わず、当事者意識をもっていない人はいないはず。そうしたなか、例えば、「このような危機や社会課題をどうすれば乗り越えられるかを自分ごととして捉え、さまざまな専門家と協力しながら、行動に移すことができる人物こそ『地域人材』なのでは」と語れば、すっと心に入っていくと思うのです。 学校の中心が教科の授業であることは間違いありません。ただ、その前提として、クラスづくり、部活動、生徒指導に代表される、集団における関係性を醸成したり、落ち着いた環境を整えたりする「学びの土壌」づくりが欠かせません。それがあって初めて、授業が安定的に成り立つわけです。 けれど、休校や分散登校によって、この土壌づくりに大きな制約が生じました。ダメージは地味に効いてきて、恐らく相当数の生徒が今後、学びから脱落してしまうのではと危惧しています。学校がそうした機能を十分に果たせないとしたら、地域の力を借りるしかありません。そこに、学びに向かわせるサポートがあるかないかが、今まで以上に問われると思います。 その第一歩が、前述したように、地域・家庭と学校が文脈を共有することです。「こうした問題を乗り越える力を付けることが学ぶ意味。それには知識を詰め込むのではなく、活用できてこそだよね」といったことを対話を通じて共有し、それぞれが子どもたちに語る。そうしたハーモニーを奏でることで、生徒が安心して学びに向かう土壌を学校内外でつくっていくのです。 それを一歩進めるために、例えばPTAを活用してはどうでしょう。地域の大人が、今どんな思いで戦っているの地域社会や保護者との文脈の共有や関係性の醸成。それこそコロナ禍における「学びの土壌」づくりの第一歩これまでは時間がかかったが今ならば即、文脈を共有できる地域連携浦崎太郎 (大正大学地域創生学部 教授)地域やPTAの力を借りた「学びの土壌づくり」を授業、探究、地域連携…学びを進化させる―今できること、今だからこそ考えたいこと242020 JUL. Vol.433
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