キャリアガイダンスVol.433
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かを語りかけてもらうのです。「社会人講話」のようにリアルに集まることを前提とすると、オペレーションを考えるだけでも気が重くなりますが、デジタルツールが身近になってきた今なら、オンライン上にライブラリーをつくることも容易です。生徒が「この人の話をもっと聞きたい」と思ったならZoomなどを使って、コンタクトをとることもできるでしょう。 地域連携というと、何から始めていいか戸惑うかもしれませんが、学校がファーストコンタクトをとりやすいのがPTA。校内の然るべき部署で議論したうえで管理職に提案すれば、通らない話ではないですし、仮にPTA活動が硬直化していたとしても、今なら文脈を共有できると思うのです。 オンラインに対する私の認識はこの数カ月で変わりました。以前は、「直接会うことでしか伝わらない思いや、現場でしか立てられない問いがある」と頑なに考えていました。もちろん、リアルであることの意味は依然として大きいものの、今は、多くの人同様、「意外とオンラインもいけるじゃん」と感じるようになりました。特に地方の高校の場合、時間もお金もかかった遠方の人たちとの触れ合いが、オンラインでは制約なくできるわけです。これまで探究に二の足を踏んでいた生徒にとっては敷居がぐっと低くなりましたし、以前から積極的に探究活動を進めてきた生徒が、その感覚をもったままオンラインを活用しだしたならば、トビラは世界に開かれているわけで、可能性は飛躍的に広がると思います。 コロナ禍によって浮き彫りになったさまざまな社会課題に直面した生徒の意識は変わりました。また、休校期間中、ラーニング・コミュニティ(主体的な学習共同体)などを通じて学んだ生徒は驚くほど成長しています。そうしたなか、旧来のような受験指導中心の授業に納得するわけがありません。今こそ、「この教科は何につながっているのか」という、その教科の本質や学ぶ意義を生徒に語るべきです。 世間から誤解されがちですが、進学校の先生方も、受験指導だけしてきたわけではありませんよね。私も岐阜県の進学校勤務時、「この問題が解けた先にこそ課題発見・解決がある。それ抜きで社会貢献などないですよね」などと、教科の価値について語る同僚の想いを常々聞いてきました。「この教科の学びの先にはこういうことがあるんだ」と誇りと熱量をもって伝えるならば、仮に画面を通したとしても、心に響かないわけがありません。 教師でしか果たせない役割とはなんでしょう。私は、生徒を「社会とつなぐ」「教科とつなぐ」「進路とつなぐ」ことだと考えています。生徒が日々感じている「こんなことを知りたい」「こんな人生を実現したい」という思いには、さまざまな教科の学びが紐づいているわけです。それらを縦横につないでいくことで、次の学びへ向かう意欲とする。そうした役目を果たせるのは教師しかいないし、それこそ学校教育の価値だと思います。今は、そういう学びの本質を語ることができる千載一遇のチャンスではないでしょうか。教師でしか果たせない役割。それは生徒を、社会とつなぎ、教科とつなぎ、進路とつなぐことうらさき・たろう●1965年生まれ。広島大学大学院教育学研究科 博士前期課程修了後、郷里の岐阜県で高校教員に。県立恵那高校、岐阜高校、羽島北高校勤務の間、人事交流で中学校勤務を経験し、総合学習を支援するNPO設立に参画。4年勤務した岐阜県博物館でアウトリーチ事業などの社会教育に取り組む。可児高校では、地域課題解決型キャリア教育の普及に尽力。中央教育審議会生涯学習部会学校地域協働部会専門委員(2015~17年)。17年より大正大学地域構想研究所教授、20年より同地域創生学部教授。オンラインによって広がる地域連携の可能性今こそ教科の本質や学ぶ意義を生徒に全力で語るべき取材・文/堀水潤一 撮影/平山 論生徒たちは何を思い、教師はどう動いた? そして、見えてきたもの授業、探究、地域連携… 学びを進化させる252020 JUL. Vol.433

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