キャリアガイダンスVol.433
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402020 JUL. Vol.433注1 : Oecd (2004). Career Guidance And Public Policy: Bridging The gap 注2: World Bank(2004). Public policies for career development : Case studies and emerging issues for designing career information and guidance systems in developing and transition economies題を解決できると考える。まさしく社会課題のなかで生きていく生徒の進路やキャリアをいかに支えるかを考えるのが「社会正義のキャリア支援」である。 その取り組みは、大混乱を経験した日本のこれからにこそ、有意義なものとなる可能性が高い。のキャリア支援」は、キャリア教育・キャリアガイダンスに、現代社会にあふれるさまざまな課題を解決する機能を見る。つまり、先生方が生徒に適切にキャリア教育・キャリアガイダンスを行うことで、生徒個人の進路の問題を解決するだけでなく、社会全体の各種の問 現在に至る「社会正義のキャリア支援」論の直接的な端緒は、2000年代前半、OECD、ILO、世界銀行といった国際機関が、キャリアガイダンスの機能の一つとして「社会正義」を掲げたことに求められる。 それまでキャリアガイダンスの機能は、端的に言えば、労働市場あるいは教育訓練市場のマッチングを効果的・効率的に行うことだった。つまり、生徒の特性や資質、希望や興味にあった就職をさせ、勉強したい内容を学べる学校に進学させることだった。 それに加えて、キャリアガイダンスには社会正義を実現する機能があるという議論がなされるようになった。例えば、OECDでは「キャリアガイダンスは平等という目標に貢献しうる」注1とし、世界銀行では「キャリアガイダンスは自分の人生を自分で決める権利を促進するものだから民主主義的な社会の重要な政策手段の一つである」注2と述べた。 キャリアガイダンスを適切に行えば、適切な就職や進学ができ、それなりに生計を立てられるだけの収入が得られる。そうすれば、貧困や、そこから派生する非行や犯罪を防ぐことができる。貧困層の収入を上げれば、格差を是正することもできる。結果的に、社会的 この春、日本のみならず、世界全体が新型コロナウィルスによる大混乱を経験した。専門家は、秋冬にかけて再び第二波が来ることを予測している。社会の状況は刻一刻と変化している。昨年の今頃、オリンピックが延期になると誰が予想しただろうか。変化が激しく、先が読めず、相互に複雑に絡み合う故、物事の行く末が曖昧にしか見通せない。そういう「VUCA」(Volatility変動、Uncertainty不確実、Complexity複雑、Ambiguity曖昧)の時代が常態になってしまった。皮肉なことに、これからの社会は不安定で全く見通しが立たないということだけは、誰の目にも明白になっている。 こうした厳しい社会状況が生じたとき、経済は一時的に縮小し、労働市場には激変が生じる。巡り巡って、人々のキャリアにも大きな影響を与える。当然ながら、生徒の進路にもキャリアにも深い傷跡を残す。 そこで、現在、キャリア教育・キャリアガイダンスを下支えするキャリア発達研究では、今回のような突発的で予測不可能な大事件は、もはや常に生じるのだということを織り込む形で、キャリア支援を考えるようになっている。 なかでも、今回紹介する「社会正義社会不安が高まるなかでのキャリア支援やキャリア教育は、何を大事にしていくべきか。日本キャリア教育学会会長の下村英雄氏に、これからのキャリア支援のあり方についてご寄稿いただきました。しもむら・ひでお●労働政策研究・研修機構キャリア支援部門主任研究員。日本産業カウンセリング学会監事。筑波大学大学院博士課程心理学研究科修了。博士(心理学)。『キャリア教育の心理学-大人は、子どもと若者に何を伝えたいのか』(東海教育研究所)、『キャリア・コンストラクションワークブック―不確かな時代を生き抜くためのキャリア心理学』(金子書房)、『社会正義のキャリア支援―個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ』(図書文化社)など著書多数。日本キャリア教育学会会長 下村 英雄予測不可能な大事件から貧困、格差・・・不利益を被る生徒へ特別寄稿

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