キャリアガイダンスVol.433
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422020 JUL. Vol.433図1 就労状況別の自己効力感・自尊感情等 図2 就労状況別・将来の目標や自分のやりたいことの明確さ別の自尊感情得点生活保護受給者は総じてキャリア意識(関心性、自律性、計画性)が低く、特に自尊感情が低く、抑うつ傾向が極めて高い。自尊感情の向上をキャリア支援の目標におくことが有効である可能性が高い(図表1)。将来の目標や自分のやりたいことが明確であるほど、自尊感情は高くなる。現在無職であっても将来の目標ややりたいことが明確でない正社員よりも、自尊感情は高い(図表2)。適切なキャリア支援によって、将来の目標ややりたいことを見つけることで自尊感情を高めることができることを示す。出所:下村英雄・坂柳恒夫・浦上昌則(2016) 生活保護受給者・雇用保険受給者の自己効力感・成人キャリア成熟度その他の意識―社会正義の視点からのアプローチ(日本キャリア教育学会第38回研究大会研究発表論文集)―注4:フランク・パーソンズ(Parsons, F.)。マッチング理論を提唱した職業指導の創始者 注5:人間らしいやりがいのある仕事。1999年ILO事務局長が掲げたスローガン自己効力感自律性自尊感情関心性計画性抑うつ傾向明確であるどちらとも言えない明確でないやや明確であるあまり明確でない●生活保護受給者 ●正規就労者 ●非正規就労者 ●正社員・正職員など ●無職で何もしていない特別寄稿たって、具体的に先生方は何をすればよいだろうか。その実践は、おおむね「カウンセリング」「エンパワメント」「アドボカシー」の3点に整理される。 まず「カウンセリング」であるが、大多数の生徒に向けたキャリア教育から外れてしまう生徒には、進路相談などの個別の対応が必要になる。 特に、社会正義のキャリア支援論では、「声」という単語がよく出てくる。これは、いわゆる「普通」のキャリア教育から外れて、容易には自分の「声」を聞き届けてもらえない生徒の存在を認めることであり、その「声」を聞くということである。これを難しい言葉で「承認的正義」と呼ぶ。オーストラリアの社会正義の教育論者であるゲイルが最も重視するのがこの正義である。 多数派のキャリア教育から外れてしまう生徒の声を聞き届け、承認することで、生徒は、ある程度まで救われる。これまで多くの研究が、少数派の生徒は、不安や自信喪失、低い自尊感情、抑うつなどの心理的な問題を抱えることを示してきた。同時に、誰かが親身になって相談に乗ることは総じて良い影響をもたらすことも明らかにしてきた。 打ちひしがれているか、そうでなければ捨て鉢になっている生徒を、再び前に向かわせるには、誰かが存在を認め、声を聞き、味方であると信じてもらう古い時代の進路指導の教科書では、明確に意識されていたことである。進路指導と進路相談を表裏一体の形で考えており、したがって、70年代から進路相談員を学校に置くことが提起されていた。現在、日本キャリア教育学会で、キャリア教育の担い手として「キャリアカウンセラー」の資格認定を行っているのは、その名残でもある。 注意したいのは、いわゆる「普通」のキャリア教育から外れる生徒が、絶対ことが肝要となる。そのうえで、すべてを生徒個人の問題とはせず、社会の問題は社会の問題であると正しく仕分けることで、少しでも生徒の気持ちを軽くしようとすることも重要になる。 次に「エンパワメント」は、普通の意味での進路指導・キャリア教育の取り組みと最も近い。自己理解・職業理解・マッチングというキャリアガイダンスの3原則は、社会正義論でも変わらないか、むしろ重視される。というのも、生徒の特徴や置かれた環境、抱える問題がシビアであるほど、徹底した自己理解、職業理解、両者の照合が求められるからだ。もともと、この3原則がパーソンズ注4による厳しい状況にある若者の就職支援から作られたことも、改めて想起していただきたい。 仮に「社会正義のキャリア支援」に独特の視点があるとすれば、できるだけ「自己決定の手段を増やす」ということを目標にする点だ。例えば、学業成績を上げることは、それだけ進路の選択肢が多くなり、自己決定の手段を増やす。将来、就きたい職業を調べることも、その職業に向けた勉強をすることも、自己決定の手段を増やす。実際に就職して、仕事をしながら経験を積むことも自己決定の手段を増やす。 世界銀行が言ったように、究極的には、キャリアガイダンスは、自分の人生数としてたくさんいる訳ではないことだ。それゆえ全体からみれば必ずしも大きな問題に見えない。そこがまさに問題であり、数が少なく、少数派(マイノリティ)であるために、全体のキャリア教育の問題からは見えにくいところにある。このことが、実践上、大きな問題となる。 では、社会正義の観点から、キャリア教育・キャリアガイダンスを行うにあ先生方ができる3つの実践
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