キャリアガイダンスVol.433
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462020 JUL. Vol.433<個人的要因>思考、信念、自己認知、意図など<行動>行動したこと行動しなかったこと<環境要因>個人を取り巻く環境、社会、周囲の人々などケーススタディつかることも多いということです。 また、前ページのケース1や3のように、ポジティブなイメージを持つことができず困難に直面する生徒の多くは、自己効力感が低い傾向にあります。バンデューラは、この「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」を高める方法として、主に「成功体験」「モデリング」「社会的説得」「心身状態の向上」の4つを挙げています。 特に、「成功体験」では、大きな目標を不断の努力で達成していく体験だけでなく、簡単にできる小さなステップを踏んで成功体験を積み重ねるスモールステップ式の体験も重要と唱えました。自己効力感を得るにはある程度の挑戦が必要になる一方、簡単すぎても難しすぎても続かないため、生徒によって、どのくらいのスモールステップを提供するか判断する必要があります。前ページのケース1のような生徒の場合で言えば、例えばクラス全員に朝1分間のスピーチに挑戦してもらうとして、他の生徒よりも少し余分に添削をしてあげて成功しやすくアシストするということも必要になるでしょう。さらに、あえて何かのリーダーを任せてみて、事前にリーダーとしての心得を伝えたり、みんなに内容を話すときの台詞を一緒に考えてあげるなど、成功させるための環境を整えることも有効な手立てになるでしょう。 困難に直面している生徒に共通しているのは、社会的な人間関係の希薄さです。他者との関わりが少ないので、他者から新しい価値観や情報を学べていなかったり、自分が成長していなくて自我が確立していないため、自ら意思決定して何かを選択するという力が育っていないと言えます。それはまさに、バンデューラが唱えた社会的学習理論に通じます。社会的学習とは、「他者の影響を受けて、社会的習慣、態度、価値観、行動を習得していく学習」を指し、バンデューラは特に、「モデリング(観察学習)」を提唱しました。 職業人の話を聞いたり、オープンキャンパスやインターンシップに参加することでイメージを膨らませていくのはもちろん、それが自分にもできそうだと思う「動機づけ過程」が、モデリングでは重要になるとバンデューラは説きます。この動機づけには、周囲から褒められるなどの外的強化の他、モデルに近づいていると思える代理強化、自分自身でやれそうだと決める自己強化などがあり、自分の内部から湧き上がる動機づけの重要性が示されています。 さらに、社会的学習理論では、行動と、認知や信念などの個人的要因、環境要因の3つが相互に作用して、影響しあっているとされています(図1)。つまり、生徒の悩みや躓きを理解する際に、行動の問題なのか、個人の問題なのか、環境の問題なのかを分けて理解していくことで、解決の糸口が見ケーススタディに活かしている理論前ページで取り上げたケースのように、特に困難に直面している生徒たちは、立ち止まり、後ろ向きになっていることがほとんどです。だからこそ、寄り添いながら、「小さな一歩を自分で踏み出す」後押しが大事になってきます。その基本となる理論を2つ、ここでは取り上げて解説します。社会との関わりによって個人の課題の解決を目指す成功体験を確実に踏める仕組みを用意する図1 社会的学習理論における三者間相互作用アルバート・バンデューラ社会的学習理論と自己効力感

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