キャリアガイダンスVol.433
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482020 JUL. Vol.433オンライン対談きな動きになるのではないかと考えています。苅間澤 私が教師を志した根っこにあるのが、「誰もがキャリアを通して、自分が望むような生活、人生を過ごせる。そのキャリアをつくるために学校に通う。それを支援できる教師ってすごい」という思いなんです。だから、誰も取りこぼさないという「社会正義」という考え方が、とてもしっくりきました。下村 ところが、皮肉にもというか、当たり前というか、大多数を対象とするキャリア教育を推し進めていくと、少数派は捨て置かれていく危険性が強まります。苅間澤 学校適応を高めようとする際も、クラス全体に働きかけて多くの生徒が適応できるなかで、一人ぽつっとうまくいかない生徒が気になるようになります。そこで、教員の意識が重要です。「あの子は特別だから仕方ない」と切り捨ててしまう感覚は当然良しとされません。外れている生徒をいかに援助できるかが問われています。先生がしっかり支援できるからこそ、すべての生徒がそれぞれの一歩を踏み出していけるのです。下村 そうですね。マスの標準的な生徒に向けた指導の一方、個別の進路相談が非常に重要になります。寄り添う、話を深く聴く。「社会正義のキャリア支援」を実践する3本柱の一つ、深いキャリアカウンセリングが重要になってくるわけです。苅間澤 先の東日本大震災のときも、生徒たちにしっかり寄り添うことがスタートでした。カウンセリング的な対応から始まって、しっかり寄り添い、伴走者的に生徒を見ていくことが大事だと思います。下村 ただ、実は私は、コロナ禍は悪いことばかりじゃなかったと思っているんです。リモートワークなど次世代の働き方が進みました。生徒たちは、オンライン授業を体験したり、いろいろ下村 新型コロナ発生からの社会におけるさまざまな出来事は、誰も経験したことがないような大事件。このショックをうまく乗り越えていくことが一つの課題です。特に社会情勢が厳しくなると、格差が開きます。より一層、「社会正義」の視点からキャリア支援をしないといけない生徒たちが生じると思います。苅間澤 そうですね。新型コロナウイルスの影響で社会が激しく変化し、前ページの寄稿文でVUCA時代とお書きになったように先は見えず、解は誰ももっていません。そういう意味では東日本大震災のときと同じ状況で〝生きるモデル〞がないのです。あのとき、生徒たち自身が、人の力を借りながら、自分たちでモデルを作っていきました。まさに今、生徒も、先生も、自分たちでモデルを作っていくときなのでしょう。下村 その点、SDGsと似ているところがあります。一つ一つの課題、例えば貧困、学力格差、発達障害、LGBTなど、今、学校内で起きているさまざまなトピックを束ねて「社会正義」という言葉でくくることで、学校内で一人も取り残さない、という大学校の社会的・福祉的価値が改めて見直されている今、そのような生徒たちへの支援をしていくうえで、大切になることは何でしょうか。キャリア教育をテーマに研究を続けてきた下村氏と、困難校の進路指導に取り組んだ経験をもつ苅間澤先生にオンラインで対談していただきました。人の力を借りながら一人ひとりがモデルを作る深いカウンセリング姿勢からスタート働く姿が生徒の身近になった!?「誰一人取りこぼさない」を 大きな動きに ―下村英雄―

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