キャリアガイダンスVol.433
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492020 JUL. Vol.433にあたって、組織全体を俯瞰して捉えてもらえるリーダーや管理職の存在も重要です。現場の先生一人が奮闘するだけでは生徒たちを支えきれないし、管理職からのトップダウンだけでも組織は機能しない。私はそれをハンバーガー構造と言ったのですが、上下にしっかりバンズがあって、それで中身を挟まないと美味しくならないのです。下村 「社会正義」というのは、それぞれが持っているキャリア教育観や進路指導観に働きかけるアプローチだと思っています。「生徒にどうなってほしいのか」という先生方の思いを議論するための問題提起の枠組みだとお伝えしたいですね。苅間澤 以前、ある困難校に赴任した際、卒業時に進路未決定の生徒が10%以上もいることに困惑し、絶対3年後にはすべての生徒が進路先を決めて卒業してほしいと思いました。ただ、そのために学校や教師に何ができるだろうと悩みました。そもそも生活習慣ができていない生徒たちが多く、顔も洗わず、歯も磨かず、ご飯も食べないで遅刻してくる。感情面でも、すぐふてくされたり、ネガティブだったり。入学した生徒たちの多くはマイナなことを試している。大変だと思っているのはむしろ大人の方で、意外に子どもたちは楽しんでいる部分もあるのではと感じます。しかも、在宅勤務などにより、扉一枚隔てて仕事の世界があるのは、子どもたちにとって新鮮なことです。これまで見えなかった「働く」が可視化され、こんなこともリアリティを伴ったキャリア教育の一つのきっかけになるのではないでしょうか。苅間澤 体験したことをプラスにしていく力を人はもっていますからね。私が期待しているのは、家にいる時間が増えて家族の会話も増え、お互いの関係性を築く機会にしてもらえるといいなと。そこが人への信頼感や自分を考えることが大事だと思うスタート地点になることが多いと感じています。下村 コロナ禍による社会の変化は、むしろ大人の問題で、我々がどれだけ適応していけるかにかかっているのかもしれません。下村 同じ境遇にありながら、あるスからのスタートで、ライフスキルの定着を目指すには、ひたすら彼らを理解し寄り添う必要がありました。その取組が積み重なって、3年後、全員進路が決まった状態で生徒を送り出すことができました。「社会正義」をどうやるかと大上段に構えるのではなく、やはり、先生一人ひとりの「熱量」が大事なんだと思います。そこは、今も昔も教師であり、キャリア支援者として重要なことなのかなと思います。編集部よりマイノリティへの支援で議論が広がってきた「社会正義のキャリア支援」。「普通の生徒だ●●けがいる」学校は存在せず、課題を抱える生徒に向き合わない高校などないでしょう。「普通」とくくられる生徒も「マイノリティ」感を抱えているかもしれません。彼らに先生方や学校はどのようなことができるでしょうか。誰もが先を見通せず不安を抱える今、多様な価値観を統合して乗り越えていくことが必要という気がしてなりません。一人も取り残さない「学び」や「キャリア教育」の在り方を、これからも考え続けたいと思います。人はしっかり働いているのに、この人はだらしないということがあります。そのとき、何が二人を分けるかというと、やはり大きいのは本人の意識や意欲です。キャリア教育やキャリア支援はそこに働きかけていきます。それに対して、自己責任問題や精神論に落とし込んでいるという批判を受けます。しかし、社会的な問題や制度、環境にも目配りするという「社会正義のキャリア支援」実践の3本柱のもう一つである「アドボカシー」、本人が進路を切り拓いていける手段を増やしていく「エンパワーメント」という働きかけが、「社会正義」では重要なんです。個人的な支援と、社会的制度面からの支援と、両方が行われないと、「社会正義」はうまくいかないというのは強調したいところです。苅間澤 それは、「学校を開いて社会につなぐ」ということではないでしょうか。小さなことでは、私は生徒をハローワークやジョブカフェに連れていったりしていました。将来助けてと言える場所だよと。ただ、そういう取組をする問われる先生自身の「教育観」と「熱量」学校を開く。社会とつなぐ進路を見定めにくい生徒のためのキャリア理論と実践特別企画「あの子は特別だから」と切り捨てない ―苅間澤勇人―

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