キャリアガイダンスVol.434
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 県独自で「奈良県域GIGAスクール構想推進協議会」を設置し、ICT活用を進めている奈良県教育委員会。長年文部科学省の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」で全都道府県中、下位を低迷。しかし、子どもたちの学びと学校環境を時代に合わせなければならない危機感をもち、国のGIGAスクール構想が始まる前から取組を始め、2018年からは、県全体での校務支援システムの整備に着手したという。 「本県のポイントは、県内の国公立学校に通う小中高校生全員と教員に、G Suite for Educationで一人1アカウントのIDを付与したことにあります」(陀安氏) 自分のアカウントで利用することで、端末が変わっても、学校や家からいつでも同じ学習環境にアクセス可能になる。生徒は上位の学校種に進学しても同一アカウントを継続的に使用でき、学びの情報をつなげていける。教員も校種を超えて生徒の状況を把握できるうえ、他校に異動しても業務がスムーズにできる。 GIGAスクール構想は端末やWi-Fi等ハードの整備と捉えられがちだが、同県はその先を見据え、子どもたちにより良い学習環境をつくるために、先生と生徒が実際の学びで使いやすい環境整備を、県域全体で進めているのだ。 「ここまで一気に進められたのは、県と市町村の教育委員会の協力体制が構築できていたことと、県の教育長が県内の全教育長へ強い呼びかけをしたことによります」(森氏) 同時並行でICTに関連した教員研修も進行し、教育現場でのクラウド活用のメリットについてなどの研修会も頻繁に実施。さらに、各校から1名ずつ選出された「STEAM教育エバンジェリスト」という、ICTを利用した効果的な授業や最新技術を研究して他教員のメンターとなれる人材の育成にも着手している。 また、G Suite for Education内の情報共有グループでは、先生たちが学校を超えて、ICTの使い方や授業方法についての情報交換を行っている。 「環境整備までは県主導で行ってきましたが、どのように活用するかは現場の先生方の工夫が光るところです。現在は先生方が情報交換しながらお互いにスキルアップしている段階。今後はエバンジェリストも増やしながら、さらに現場で活用してもらえるような支援を実施していきます」(陀安氏)県内の全生徒と教員にIDを付与学びをつなぐ環境づくり~ICT活用を加速する自治体~奈良県教育委員会 奈良県立教育研究所 昨年度までは授業におけるICT活用が進んでいなかった平城高校だが、GIGAスクール構想とコロナ禍を機にICT活用が一気に進み、現在もさらに加速している。 「生物の教員として、もともと教科書や資料集など紙の教材だけの授業で生徒の学びを深めることに限界を感じていて、個人的にはICTを使ってみたかったのですが、誰も使っていなかったので遠慮していました」(岩崎先生) しかし、学校休業により学校全体でICT活用を検討。県教委の協力で生徒用端末の貸与により、G Suite for Educationにアクセスする環境が整ったことを機に、「この機会ならできる!」と考えた岩崎先生は、理想としていたタブレットを活用した授業を実施。すると生徒たちから授業への質問などの反応が来て、普段よりも活発な授業態度が見え始めた。また、若手教員が職員室で楽しそうに動画作成をしていたり、生徒から反応を受ける様子を目の当たりにしたベテランたちも興味を示しだした。 「これは広がるチャンスと思い、岩崎先生等にICT担当になってもらい、全教員向けの研修をやってもらいました。やってみるとベテランもこれならできると感じてやり始め、授業の組み立てに長けるベテランの知見を今度は若手が学ぶ好循環が生まれました」(金子教頭) その結果、活動が波及していき、ほとんどの教員が授業動画を作成、配信するに至った。 学校全体への広がりのポイントは「可視化」と「オープン」だと岩崎先生は語る。「プロジェクターを全台職員室に置き、各教員がそれを持って教室に向かう姿を可視化することで、使っていない教員が刺激を受けたりもしました。また、情報担当が機器やノウハウをオープンにしてみんなで使えるようにしてくれたことも大きいです」(岩崎先生) 登校が再開した今後も、3密対策として空き教室を活用したサテライト授業を企画したり、ICT研修も続けるなど、ICTをさらに活用する工夫が続いている。係長陀たやす安龍也氏指導主事森 亮介氏教頭金子博和先生ICT担当(生物科)岩崎洋明先生~学校現場での実践事例~ 平城高校(奈良・県立)「可視化」と「オープン」で波及浮かび上がった教育格差 学びを進化させる「6つの視点」ICT活用112020 OCT. Vol.434

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