キャリアガイダンスVol.434
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 埼玉県深谷市で「食べられるバラ」の農薬不使用栽培や、加工食品・化粧品の企画開発などを手掛けています。起業したのは2015年、22歳の時。でも、高校時代の私は起業するなんて考えたことすらなく、今とは正反対のキャラでした。将来の夢や目標もなく、友達と接するときも気を遣って、自己主張を避けていました。 そんな私の生き方が180度変わったのは大学に入ってすぐのことでした。1年生の春に参加したゼミの自己紹介タイムで、同級生たちが夢や目標をキラキラした笑顔で語ったんです。その姿を見て、私と同い年なのにどうしてここまで違うんだろうと衝撃を受けました。そして私自身が輝くためにはどうすればいいか、真剣に考え始めました。その結果、一日のなかで一番長い時間を費やすのは仕事だから、好きなことを仕事にすれば幸せな人生を送れるはずという結論に至ったのです。じゃあ私が仕事にしたいほど好きなことって何だろうと考えていたちょうどその頃、母との何気ない会話のなかで、食べられるバラがあることを知りました。私の家族は全員バラが大好きで、家の中にも常にバラの花がありました。でも食べられるバラがあることは知りませんでした。そのとき、「バラは食べられない」という固定観念を払拭すればもっといろいろなことが見えてくると思いました。それで「食べられるバラの栽培」を仕事にしようと決心したのです。 そうと決まれば善は急げ。大学を2年生の春に中退し、大阪のバラ農家に住み込みで働き始めました。2年弱修行した後、起業したというわけです。でも、1期目からいきなり危機的状況に陥りました。半年後に3000本のバラを枯らしちゃったんです。このときは絶望感しかなくて、この先どうしようと眼の前が真っ暗になりました。とにかく少しでもお金を稼ごうと、朝5時に起きて午前中はビニールハウスでバラの世話、昼からは都内に出て営業回り、その後は朝まで居酒屋でアルバイトを始めました。営業もなかなかうまくいかず、一日に回れるだけ回っても一社も受注できない日も。そんなときは深谷駅でよく泣いていました。 でも、起業するときにどんなことがあっても絶対に逃げないと決めていたのと、これまで支えてくれた人たちのため、何としても会社を潰したくなかった。だからこの危機を乗り越えるためにはどうすればいいかをひたすら考え、実行しました。例えば営業先でのプレゼンも本番前に家族や友人に協力してもらって練習しました。そうしていくうちに徐々に受注も増えていったんです。また、肝心のバラ栽培の方も、農業経営スクールに入学して一から学び直したことで、栄養・美容成分豊富なバラを安定的に栽培することができるようになったんです。2期目からはバラを使った加工食品の販売を開始。これが予想以上に売れて軌道に乗り、3期目には年商1億円を突破しました。今後も「農業界の希望の星」として後進のロールモデルとなれるよう、精進したいと考えています。 今、私は毎日が楽しく、とても幸せです。寝る暇もないほど忙しくても、つらいことがあってもまったく苦になりません。それはひとえに好きなことを仕事にしているから。ただ、将来の夢なんてわからないという人は、それでも全然いい、でも自分の殻に閉じこもることだけはやめてほしい。高校生時代の私がまさにそうで、夢も希望もない、何もできないダメ人間だと勝手に自分の可能性を閉ざしていたので。だから遊びでも何でもいいので、いろんなことを経験してほしい。とにかく可能性は無限大だから、がむしゃらに走っちゃえ! って言いたいです。可能性は無限大。自分の殻に閉じこもることなくがむしゃらに走っちゃえ! 起業家・ローズ美容家/田中綾華希望の道標取材・文・撮影/山下久猛1993年生まれ、東京都出身。ニ松学舎大学国際政治経済学部を2年次に中退後、大阪の食用バラ農家に弟子入り。2015年「”食べられるバラ”を通して世界中の女性を美しく、健康に、幸せに」を目標に「ROSE LABO」を設立。食べられるバラの栽培、そのバラを使った食品や化粧品などの商品開発、販売を手掛ける。講演、セミナー、ワークショップ、農業コンサルティングなども行っている。2019年「マイナビ農業アワード」で最優秀賞を受賞。https://www.roselabo.jpたなか・あやか32020 OCT. Vol.434

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