キャリアガイダンスVol.434
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た。その後、高校総体が中止になり、落ち込む生徒はいたものの意外にも切り替えが早いんです。本校は「大船渡学」という探究学習に力を入れており、他にも打ち込める探究テーマがあったことがモチベーションの維持につながったのでしょう。また、東日本大震災で被災した子も多いのですが、そうした経験も影響しているのかもしれません。岩本 まさに、つながりや関係性のなかで探究的な学びに熱心に取り組んできた高校生は学びが止まっていないんです。ICT環境が整っている云々ではなく、普段から学びのPDCAを回していたからだと思っています。しかも、さまざまな社会課題が発生するなか、自らの勉強のことだけではなく、「自分にできることは何か?」という問いをもって、積極的に社会参画までしている。大船渡高校にもそうした生徒さんが大勢いると聞きますが、先生方は普段からどんなことを意識されているのですか?千葉 本校では、「探究のテーマは生徒かというと環境なんです。例えば、失敗を含めて挑戦することが許される安心・安全の風土があるかどうか。指示命令の一方通行ではなく、問う・問われるという対話的なコミュニケーションがどれだけあるか。人と違うことを認められる包摂性がある場なのかどうかなど。そうした土壌があると、好奇心の芽が育まれ、多様性を受け入れ、自分自身に対しても問うことができるようになる。なので「待つ」というのは本当に大切だと思います。秋田 「待つ」とは「見守る」ことなんですけど、「放任」に捉えてしまいがち。なので話し続けたり、お膳立てしすぎたりする教師の性ってありますよね。探究学習に関わっているある高校が、1年目は「姉妹都市との交流」を前提に教師サイドで内容を固めていったところ、生徒の意欲が薄れていったことを覚えています。けれど、次の学年のもの。教師が与えることはやめよう」とか、「生徒から出てきた課題を否定しないように」と申し合わせています。すると、大人では考えもつかないようなアイデアが出てくるし、背中を押すだけで「自走」し始める。教師は「伴走」するだけです。 それと、授業にも探究の要素を入れていく必要があると思っています。本校には、最初にお題を出したあとは、生徒同士で勝手に問題を解いていく授業を実践している先生もいます。「ヒントをあげようか」と水を向けても「自分たちで考えたいので必要ない」と言われるそうです。ただし、生徒が導きだした答えに対しては、「どうしてそう思ったの?」「それはなぜ?」と問い掛けるため授業は白熱します。そのように「総合的な探究の時間」を独立したものとせず、教科の授業や部活動を含め、あらゆる場面で探究的な学びの機会を広げたいと考えています。岩本 主体性や協働性といった非認知的な力を育む際、何が影響を与える新時代に対応した高等学校教育の在り方2019年4月文部科学大臣による「新しい時代の初等中等教育の在り方」についての諮問を受け、中央教育審議会は、初等中等教育分科会の下に「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」を設置。高校教育に関しても、先行する審議や提言等を基礎に置きつつ、「新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ」にて検討。●生徒の学習意欲を喚起し能力を最大限伸ばすための普通科改革など学科の在り方 ●地域社会や高等教育機関との協働による教育の在り方 ●時代の変化・役割の変化に応じた定時制・通信制課程の在り方を中心に議論を重ね、中間報告がまとめられたところ。岩本 悠さんは、その分科会、ワーキンググループ委員として積極的に提言している。(図は提出資料の一部※)※https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200702-mxt_syoto02-000008335_10.pdfいわもと・ゆう●東京都生まれ。学生時代にアジア・アフリカ20カ国の地域開発の現場を巡り体験記を出版。幼小中高校の教員免許を取得し、卒業後、ソニーで人材育成、組織開発、社会貢献事業などに従事。2007年より島根県隠岐郡海士町で隠岐島前高校魅力化プロジェクトを推進。15年から島根県教育庁と島根県地域振興部を兼務し、地域との協働による高校教育改革と人づくりに従事。島根県教育魅力化特命官。地域・教育魅力化プラットフォーム 代表理事岩本 悠学校の「当たり前」が突如なくなった今だからこそ問い直したい本当に大切なこと、任せてもいいこと浮かび上がった教育格差 学びを進化させる「6つの視点」オンライン座談会352020 OCT. Vol.434

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